第15話:洞窟クリスタル柱と黄金の牙巨大蟻

 十三夜からの映像が入った。洞穴から入った所に待機しているようだった。これが、紫外線モードで見た世界か、コケ類は幻想的に紫に輝いている。壁面の水晶の結晶は緑から青のグラディエーションに変化するものと赤から、紫のグラディエーションに変化するものが二種類があった。


「十三夜、可視モード切り替えてくれ」


 令時は思念波で伝えた。可視モードでは、赤色で照らした写真現像暗室にいるようで、周りは赤色にしか見えなかった。


 機敏に反応するには、紫外線モードの映像をオーバーラップして観察しないとだめだ。


 令時達は水晶の洞穴の前に立ち、十三夜と合流した。鎮守の杜のような無機質な思念波、負の思念波は、この洞穴からは溢れていなかった。むしろ浄化された心地よい思念波が流れてきている。


「なにかまずいな。中に入ったら、もうこのままでいいや、という感じになってしまう。護符の結界がなかったら無気力状態に陥ってしまいそうだ。しかも視界は全面赤色だし、思考も落ちてしまう。


「十六夜、十五夜、実態に戻れ。人型だとこの思念波の中では行動が鈍くなってしまう。俺も、紅のドラゴンに変幻したいところだが、洞窟内は狭くてだめだ。


「ハズキ、いいか無理をするなよ。お前の持っているのは、神級の武器といえど短剣だ。最後の一刀のとどめは、リンに任せるからな。リン、とどめの急所は俺が見極めるから指示を待つように」


「承知しました。早神様」


「リン、実践ははじめてか?」


「はい、でも大丈夫です。必ずや父の仇を討ってみせます」


「今回、更に戦力にアップしてるし、戦闘も慣れてきている。黄金の牙巨大蟻の攻略は、大あごの牙だな。これさえ破壊すればなんとかなりそうだ」


「令時兄ちゃん、今回の作戦は?」


「いつものとおりだが、サクは今回、俺ではなくてハズキのサポートに回れ。十六夜、十五夜は、リンのサポートだ」


「わかった」


「信士は、初撃で黄金の牙を狙え。この暗赤色の中でうまく見えるかが不安だが」


「承知しました」


「さあ、いくぞ!」


 洞窟の中は十三夜の事前の映像どおりあたり一帯、暗赤色だった。暗赤色の心理的な圧迫に対し相反する心地よい思念波を受け、酔った気分にさらされた。洞窟はずっと下りになって、壁面からは、直径が五メートルもあるような巨大な水晶柱が縦横に生えており、空間を埋め尽くしていた。


 その中を進んで行くのは、骨が折れた。水晶柱の隙間をかいくぐって行くと崩れ落ちた水晶柱の一群があった。その水晶は鋭利なもので切断された後が残っていた。リンの父親が妖刀火の鳥で切断したのかもしれないと、令時は思った。


「リン、神妖刀火の鳥でこの水晶柱を切って道を作れるか?」


「やってみます」


 リンは意識を内に向け、鞘から刀をゆっくりと抜いて上段に構えた。髪が逆立ち思念波が溢れているのがわかる。神妖刀火の鳥からは、紅い陽炎が波紋に青白い陽炎が刀全体に揺らめいたかと思うと、そこから二連撃が繰り出され、超速の斬撃の青白い波動が眼前の水晶柱を切り裂いて道ができていた。


「これほどとは、剣筋が見えなかった。見えたのは、二連撃で生み出された青白い波動の残像だけだ。どこまで遠くの水晶柱を切り裂いただろうか?」


「姉さんの神妖刀火の鳥、すごいや。僕もこの神流星刀で試したい」


「そうだな、いきなり魔物に攻撃する前に、一度効果のほどを見ておいたほうがいいな。ハズキ、前方の水晶柱の残骸に一刀当ててみな」


 ハズキは短刀を逆手に握り、上下に振り抜いた。天井から無数の粒子が流星雨のように降り注ぎ、水晶柱の残骸を中心にして着弾した。周りの水晶柱を粉砕し、そこには大きな空間が出来ていた。ハズキは自分が繰り出した剣の効果できょとんとしているようだ。


「これまた、すごいな。神流星刀にはまだ属性石をセットしていないのにここまで威力があるとは。ハズキと相性はいいのかもしれない。技を流星剣と名付けよう」


 カラン! 「令時さん、これは!」


「これは、太古に封入された薄い石版、いやスマートフォンだ! 残念だが、ハズキの流星剣でスマートフォンが撃ち抜かれている。メモリーもだめだな。何か情報が得られればと期待していたのだが。一つあるということはまだ他にもあるかもしれない」


「十三夜、最深部まで行って、黄金の牙巨大蟻の映像を頼む」


「ワカッタ」


「そういえば、伏見の蜘蛛って昆虫ではなくて節足動物だったな。今回は蟻なので、意思疎通はできないのか?」


「ハナシはできるけど。いうことキイてくれない」


「そうか、でも話はできるのだな。上鳥羽の凶悪巨大蜂は一言だけど喋ったし。何か聞き出せるかもしれない」


 令時達は綺麗に切断された整列している水晶柱の道を黄金の牙巨大蟻のいる最深部まで進んでいった。途中、水晶に封入された薄い石版であるスマートフォンは見つからなかった。


 最深部は、巨大な空間となっており、直径十メートルの水晶柱が何本も天井を支えており、中央の間には、白水晶柱で球状に編みこまれた、大きな部屋があり、隙間からは巨大蟻の黄金の牙が見えていた。


「レイジ、アリさんから思念波がキテル」


「なんて言ってる?」


「ナニヨウカ、ワレハここをマモッテルだけ、だって」


(やはり十三夜は昆虫種とコンタクトがとれるのか)


「十三夜、ちょっと俺の手の平に乗ってくれ」


 令時は十三夜の投影裸眼ネックレスに、異種の思念波を相互に翻訳する機能を、連想実体魔法で付与した。


「これで、巨大蟻と十三夜を通して話ができる」(リンは父の仇があるが、できれば巨大蟻とは戦いたくはない)


 令時は巨大蟻と話をしてみた。


「俺は早神令時という。お前に名はあるのか?」


「名とな。久しいな名を聞かれるのは。もはや思い出せぬ。お主の後ろに控えておる娘と狼は、以前、ここにきた者と同じ思念波を感じる。また、ここを荒らしにきたのだな。鉱石探索者か」


「まあ、そんなところだ。それとリンが仇討ちせねばならない」


 令時は過去の経験を思い出した。いろんな場面で相手が勝手に自身の職業を決めつけるので、返答はいつも、そうだと言っていた。


 例えば、タクシーで僻地に行ったときは、取材大変ですね、記者さんですかとか、大学病院に行くときは、先生ですか急がれますかとか言われていた。運転手には、エンジニアの説明が面倒で、彼らの推測の期待を裏切らないようにしていたのである。


 他企業に行っても知らない偉いさんから会釈されるし、この場合、どう勘違いされているのだろうかといつも思っていた。今から思えばこれは凄い技である。


 相手が思った職業や地位に無意識に醸し出すのであったから。今回は、令時は苦笑した、魔物から鉱石探索者かと言われたので、令位守護者っていっても理解できないだろうから、そうだと答えたのであった。令時はたった今『精神実体魔法』(相手の思った職業、職位に偽装できる)を取得したのであった。


「我は、ここを守れと主から言われておる。時空の神宝を出現させてはいけないと」


「何故、時空の神宝を出現させてはいけない?」


「人族とは相いれぬのだ」


「主とは?」


「もう、いいだろう。お前たちは敵であることには間違いない」


 不意に巨大蟻の口から液体が放出された。高熱ですでに気化状態となっている。


「これは、濃硫酸ミストだ! 皆、霧に触れるな」


(霧が急速に拡散している、後がない。どうすれば)


「ハズキ、流星剣だ。あの球状の部屋の頂点に撃て!」


 ハズキは即座に反応し、短刀を降り抜いた。天井から無数の粒子が流星雨のように降り注ぎ、一瞬にして霧と中和した。流星剣は連続で繰り出せない。もしここで、第二撃がきたらまずいことになる。


「あの魔物の口を防がないと」


 十六夜は、令時の思念波を読み取り、瞬時に球状の部屋の上部に、漆黒の狼の爪をたてた。水晶柱の一部を切り裂き、数度回り込んで連撃している内に巨大蟻の頭が確認できるぐらいの開口部ができていた。


「いまだ信士、やつの口に向けて魔弾を撃ちこめ!」


「承知しました」


 魔弾二発は開口部に吸い込まれ、巨大蟻の頭に着弾した。青白い光が膨張しながら爆発し、周囲の水晶は、青白い光を吸収し、一部分は紫に光った。巨大蟻は黄金の牙で防御し、傷一つ付いてなかった。ただ、周囲が青い光だと動きが鈍るようであった。


 令時は十三夜の紫外線モードの映像を、自分の見ている目からの映像と脳内でオーバーラップしてみた。


(口の部分が赤色で回りは緑色にみえ、牙は黄色か)


 ダブルバレルショットガンで慎重に赤色部分の口を狙って撃った。魔弾は青白い光を引きながら、敵の口に着弾。


「赤色部分がなくなった。破壊できた」


 牙のほうは無傷であった。その牙を切断できるのは、リンの神妖刀の鳥だけだ。


 今度は十五夜が超高速の突進攻撃で、下部の水晶柱を破壊した。黄金の牙巨大蟻の全容がみえた。


「十五夜!」


 黄金の牙が十五夜の牛ドラゴンの二本の角をはさんでいた。ピシ。


「十五夜様!」


 牛ドラゴンの片方の角が折られた。リンは即座に神妖刀火の鳥を抜刀し、黄金の牙の片方を切り落とした。


「十五夜、リン、戻れ」


 牛ドラゴンの片方の角は、斜めにひび割れ上部が折られ、ひび割れた根本からは、うっすらと血がにじんでいた。


「十五夜、大丈夫か?」


「痛みますが、大丈夫です。でも、超高速突進攻撃はできなくなりました」


「そんなことは気にするな、人型に変幻して十六夜に付け」


 少女に変幻した十五夜は角自体が無いので痛みが消えるようだった。


 巨大蟻のほうは上あごの黄金の牙の片方が、リンによって切り落とされ荒れ狂っていた。


「予定では、リンの二連撃で両方、切り落とす予定だったが……、もう片方切り落とせば、後は総攻撃すればと思ったんだが」


「レイジ、アリさん球状の部屋からデテくるミタイ。アイツ、毒針モッテル。アリさんの癖にナマイキだな」


「生意気も何も、魔物なんだから…… でもなんでアリに『さん』付けなんだ。近隣種だからか? サク、計画変更だ、巨大蟻が出てきたら、毒針に魔弾を撃ち込んで破壊してくれ」


「わかった。令時兄ちゃん」


 巨大蟻が部屋から出たと同時に巨大蟻はサクにめがけて一線の毒液が放出された。サクは、その毒液の方向に合わせて毒針へ魔弾を五連弾を放出。一、二、三弾、毒液に触れるたびに暴発し、蒸発。四弾目も蒸発。五弾目は毒針直前で蒸発した。サクは躊躇せず、最後の魔弾を毒針に向けて放出した。その魔弾は毒針まで到達し、着弾したようだ。


「サク、よく最後の魔弾を放出した。毒針を粉砕したようだ。十六夜の後方に行け」


「わかった。令時兄ちゃん」


「現在の戦力は、俺のダブルバレルショットガンの魔弾が一発、信士のリボルバーの魔弾が一発、十六夜の爪、リンの二連撃。ハズキの流星剣はまだ使えないか。


「巨大蟻の足止めする。十六夜は右側、俺と信士は左側、最後はリンの二連撃で行く」


「こしゃくな鉱石探索者め、ん、違うなお前はまさか、あの令位守護者なのか! 油断した。この時代に令位守護者が顕現していたのか! 許さぬ」


 黄金の牙巨大蟻は令時を令位守護者と認識したようだ。周囲の水晶柱は暗赤色から鮮紅色に変化し、巨大蟻は狂暴化し、黄金の片牙凶悪巨大蟻へと変貌した。


「そうさ、令位守護者を理解したか。我、令位守護者にして早神令時。ここで汝を成敗する」


 この言葉を合図にして双方、総攻撃が開始された。


「我は十六夜、令時の付き人兼師匠、参る」


 十六夜は、黄金の片牙凶悪巨大蟻の大あごの牙の攻撃をかいくぐり、右脚に渾身の爪を放った。


「私は信士、令時さんの部下でプロジェクトマネージャ、業務遂行します」


 令時と信士は自身の最後の魔弾を左脚に放った。魔弾の青白い軌跡と着弾時の爆発で青い閃光が水晶柱を青色に変化させた。


 黄金の片牙凶悪巨大蟻は、大あごの牙で防御しきれず、その場に崩れ落ちた。


「私は、九条の娘リン、父の仇を! 神九条二連撃!」


 リンは、髪が逆立ち思念波が溢れ、すでに上段に構えで準備していた二連撃を放つ。


 超速の斬撃の青白い波動が、黄金の片牙を切断され、宙を舞い、体の中央を真っ二つに両断していた。


「令位守護者よ、我はここからは一度も出たことがない。外は、どのようなものかの。人族とは……」


 黄金の片牙凶悪巨大蟻は、ここに絶命する。


「最後の言葉は何を言いたかったのだろうか」


「コイツはここから出たコトガないんダヨね。ヒトが来なかったら、ココでずっと暮してイタと思うけど。外にデタかったのカナ」


「そうだな」


 星形石はリンの最後の一撃で真っ二つに切断されており時空の欠片が見えていた。


 コアナンバー三の時空の欠片を令時は採取した。これで全体の三分の一を集めたことになる。星形石の周りには、最上級の白水晶が一面に生えていた。何百年分の量がある。これでこの宇治集落も潤うだろう。

 しかもひとつの白水晶破片の中に、薄い石版の機械、スマートフォンが封入されたものを見つけた。十五夜は負傷したが、全目的を達成したのである。


「十五夜、牛ドラゴンの実態に戻ってくれないか」


「はい、令時さん」


 令時はリンから神妖刀火の鳥を借り、黄金の片牙から先端から角を切り出し、十五夜の折れた部分に嵌め、ヒビが入っているところは、黄金の片牙の他の部分を利用し、仮想実態魔法で金継を行った。


「十五夜、姉ちゃんかっこいい。凄いなこの角。金のスジが龍脈のようになってる。見たことないよこんなの」


 見事な金継だった。


「左の角も折って付け替えてもらおうかしら」十五夜はうれしそうに言った。

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