第13話:宇治集落領主、金色九尾狐との面会

 令時は伏見領主九条に強力を仰ぎ、物資を補給して、南の宇治集落へと向かった。


 牛車は十五夜が実態に変幻した牛ドラゴンで引いていた。引手はいつもは信士だが、今回は、十五夜に頼まれて令時が引手を受けた。


「どうして、引手をやらないといけないんだよ。手綱を叩くのもなんか変な気分になるし。肩には、十三夜がまとわりついてるし」


 十五夜は令時と話がしたかった。


「令時さん、無眼への超高速の突進攻撃は良かったでしょ」


「ああ、すばらしい。あれで無限は眩暈でよろめいたし、隙ができた」


「レイジ、ワタシの急降下の映像見たよね」


「ああ、すばらしい。あれで龍神風のブレスの始点をピンポイントで発動できた」


「ソウデショ」


 十五夜も十三夜も令時に褒められて満足げだった。


「しかし、十三夜からの映像をオーバーラップしてみるといまだに3D酔いするな」


 3D酔いは自分が先行して予測済みの動作から、映像が少しでもずれることで、脳内の映像処理に不整合が発生し、酔うという現象が生じてしまうのである。十三夜との連携も更に練度を上げていかないといけないと、令時は思った。


 シュタ。パシ。と手綱を叩く音がした。


「あ、いけね。無意識で手綱叩いてしまった」令時は、牛ドラゴンを少女の十五夜を重ねてみてしまい、なんとも言えない気分になった。


「レイジ、顔が赤いよ。ダイジョウブか。また変なことカンガエテイルノカ」


「令時兄ちゃんは、宇治集落の魔物に対抗する、新しい武器を考えてるんだよ。きっと」


「ああ、そうだな、サク。宇治集落にもいるよな、きっと強力な魔物」


「令時兄ちゃんがいた世界では、魔物はいないの」


「ああ、あんな巨大で命を奪われるような魔物はいない。ここに比べたら平和なもんさ」


 元の世界では、魔法も守護者も勇者も存在しない。令時は、この世界にきて、魔法とか超能力は体系的に解明されてないだけで、実は存在するものかも知れないと思った。


 ここで命を落としたらどうなるのだろうか? 輪廻転生があるとしたら魂はどこに行けるのだろうか。魂は故郷に戻れるのだろうか?


「宇治集落って令時兄ちゃんが元住んでいた場所だよね」


「ああそうだ。俺の元の世界の故郷だ。サク、これをあげるよ」


 令時は、記憶実態魔法で銅貨を一枚錬成してサクに渡した。


「新しい属性石なのか? 裏に建物が刻印されてるけど」


「その刻印はね、平等院っていうんだ。俺の住んでたところで、千年前からあるんだ。この世界にもあるかな」


「知らない」


「そうか、知らないか」


 令時はちょっとがっかりした。平等院といえば、この子ぐらいであれば、ほぼ皆知っている。十六夜は令時の思念波を読み取って答えた。


「令時、平等院というものはないが鳳凰堂が一万年以上前より鎮座しておる」


「おお、鳳凰堂はこの世界でもあるんだな」


 一万年以上前ということは、やはりこのスマートフォンの時計の年表記〇九四六年は正しかったか。西暦にして一万九四六年である。元の世界とは時間は連続していた。


「あの天変地異の時、妻と娘は部屋で寝ていた時間帯、丑三つ時だ、どうなっただろう。生き延びただろうか。幸せな人生を送っただろうか。元の世界に戻れるならあの日より前に戻って、災難を回避したい」


 令時の回想の思念波から、十六夜も思い出していた。


「鳳凰堂には我の兄である守護者、十七夜(かなき)、不死鳥のフェニックスがおったが、数年前に行方がしれなくなった。山城地域に行ったことまではわかっておる」


「そうか、十六夜には兄がいたのか。山城に行ったということは、すでに盗掘されたあの星形石と何か関係あるかもな」


「それは、我も考えておる。いずれ探し出して真意を聞かねばと思っておる」


「十夜族間で思念波は共有できるはずなのに、連絡はとれないのか?」


「十七夜とはできぬ。何かに妨害されておる」


 相変わらず道中の建物は放棄され、人の活動する気配はまったく感じれなかった。集落間を移動する者もまったくいない。自動化された箱が行ったり来たりしているだけであった。箱の進行方向に立つと、箱が勝手に器用に避けて通っていく。中の品物によって、箱にぶら下がっているタグの色が違っているようだった。箱の物資だけは頻繁に遭遇した。宇治集落へと、色々な物資が運びこまれているようだ。


「令時さん、宇治集落の城門が見えてきたよ」


 シュタ。パシ。名前を呼ばれて、令時は、はっとしてまた手綱叩いてしまった。


「令時さん、また顔が赤いよ」


「すまん、十五夜。なんでもないよ、痛くないよな」


「ええ……」


 宇治集落の城門は開かれており、城門は和風であった。その門は、平安時代の羅城門風といったところであった。七つの門の内、中央の三つが開城されている。中央には出迎えであろう一人の人物が伺える。


「レイジ、また先にテイサツにイクカ?」


「いやまて、出迎えがあるから、勝手に先に入ったら失礼だろうから、俺の肩に居ろ」


「ワカッタ」


 出迎え人は巫女のような成りをしているが、白い尻尾と猫のような白い耳があった。令時は、この巫女のような狐の獣人をまじまじとみた。


「コスプレだよな。コスプレですと言ってくれ。いや十三夜でさえ蜂の人型妖精なんだから、この世界では、これは有りなのか。どういう進化形態なのか非常に興味が湧く。いや進化論では、人型妖精や獣人なんか理論的に考えても到達できないな。昔、反進化論という本を読んだことがあるが、あの本の結論はどうだったか忘れてしまった」と令時はつぶやいた


「令位守護者様、ようこそいらっしゃいました」


 令時は、ふとその透き通った声を聴き、我に戻った。


「私は、早神令時です。ここにいる者は私の友人達で、時空の欠片を探して旅をしております。この地域にもあるかも知れず立ちよった次第です。この紹介状は伏見集落領主、九条殿からです。ぜひこちらの領主にお会いしたくよろしくお願いします」


「早神様、委細承知しております。ところで失礼ながら、そちらのお嬢様から、狼の思念波を感じるのですが」


「お嬢様? 我はもう三百年も生きておる。実態は漆黒の狼じゃ」


 十六夜は、お嬢様と呼ばれて怒ったようであるが、今の少女の姿だとお嬢様と呼ばれても仕方がないなと令時は苦笑いした。


「失礼致しました。守護者の漆黒の狼、十六夜様でしたか。我々一族は、狼を畏怖しております。ご無礼をお許しください」


 十六夜の実態は二メートルもある狼だ。狩る側だから、令時も初めて会ったときは丸呑みされるかと思ったほどであった。


「そうか、ここの集落には、狐族が住んでおるのか?」


「はい、昔から、人族と狐族が共存しております」


「そなたの名は?」


「リンと申します」


「ではリン、案内よろしく頼む」


「この道を真っすぐ、行ったところにお屋敷がありますのでついて来てください」


「ほう、この道は平等院表参道だ。スマートフォンのオフラインマップと一致する」


 石畳も花崗岩から翡翠に置き換わっているが、参道の面影が残っていた。参道の両側には、茶屋らしき建物があった。抹茶の香がしたので、令時は、茶屋と判断したのであった。


「この建物は茶屋ですか?」


「茶葉を加工している製茶場です。ここから各地の集落に出荷しています」


「伏見集落の抹茶はここから仕入れられてたんですね」


「はい、抹茶は人気商品でして」


「この世界においても、抹茶は継続して存在してるんだ。一万年経っても人気商品! すごいじゃないか」


「あれが、お屋敷でございます」


「令時兄ちゃん、あのお屋敷って、この銅貨の刻印と同じ形だよ」


「見事! 鳳凰堂だ。この世界の鳳凰堂」


 屋根瓦は翡翠で緑だが、柱は朱で強烈なコントラスになっていた。空の青に映え、すばらしい光景であった。屋根には、元の世界とはすこし変わっているが、鳳凰の装飾物が設置されているようだった。元の世界でも鳳凰の装飾物は世代により少しずつ改変されており、幾千年も経ったこの世界では、火の鳥をデザインしたようになっていた。


「ホウオウドウって?」


「サク、ホウオウドウっていうのは建物につけられた名前なんだよ」


「なんだ建物の名前なのか。令時兄ちゃん、時々意味がわからない言葉を話すし」


「早神様、こちらのお座敷でお待ちください」


 令時だけ、特別な客間に通された。壁には、雷神、風神のような絵画が飾られていた。客間には、香が炊いてあった。令時は、匂いに過敏で香とかには、極端に弱かった。頭痛がするのである。会社で玄関におく生花はやめてフラワーアレジメントに替えてもらったほどである。


「失礼いたします」引き戸がゆっくりと開いた。


 色白で知性の富んだ顔、美しく立派な金色の九尾の狐の霊獣人が姿を見せた。


「九条サクラと申します」サクラは丁寧に座礼した。


「私は、早神令時です。失礼ですが九条という姓は?」


「はい、お察しどおり、伏見領主の九条は、我夫の弟です。ようこそ、おいでくださいました」


「そうでしたか」


「道中のお話を聞かして下され。旅人は珍しく域内の様子はあまり伝わってこないのです。この地にも時空の欠片の話が昔から伝わっておりますよ」

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