第11話:伏見集落の明けの明星と凶悪巨大蜘蛛

「早神様、今の時期、凶悪巨大蜘蛛は日の出の時、明けの明星が消えるときに活動が一瞬停止します」


 令時達は領主九条の言葉を得て、東の山の鎮守の杜に向け、日の出前に出立した。丁度、東の空には明けの明星が眩いほど輝いており、鎮守の杜のネフライト鉱山の上部にかすかに緑に煌めく四つの点が見えていた。


「なんだろうな、あの緑の光点は。それにしても、やけに金星が明るく輝いているな」


 夜空には月も出ていないのに、金星の光で地上に微かだが影が落ちるほどであった。


「十三夜の情報だと、鎮守の杜は、ここから五百メートルほど。徒歩で五分ほどでたどり着けるだろう。そこから登っても一時間ぐらいか。今回、このダブルバレルショットガンの出番はあるかな。どんな威力かもわかってないけど」


「令時、これがこの伏見集落の鎮守の杜のゲートだ。上鳥羽の時と同じ、無機質な思念波がゲートから溢れているな。ゲートを構成している石の二つに星型の紋が刻まれている。上鳥羽の時は確か紋が刻まれていたのは一つだったはず」と十六夜は言った。


「ソレハ、ジクウノケッペンが二つ奉納されている印ダヨ」十三夜は得意げな顔で令時の周りを飛んでいた。


 十三夜は上鳥羽のネフライト鉱山空洞内にずっといたから、この無機質な思念波はまったく問題ないように見えた。耐性があるようだった。


「そうだ、十三夜。この投影裸眼ネックレスを着けてくれないか」


「ナニコレ、このネックレス、不細工! イラナイ」


「十三夜がいらないんだったら私がもらってあげるよ」


「十五夜ニハ、アゲナイ、ワタシがモラウ」


「やれやれ、この二人は……」


 令時が連想実体魔法で錬成したネックレスは、確かにデザインはいいとは思えない代物だった。太古の巫女のイメージが反映されすぎたのか、翡翠宝石の粒は不ぞろいだった。しかしそのネックレスには、投影裸眼の機能が付与されていた。


 投影裸眼は着けた者が見ている様子をそのままリアルタイム映像として思念波に乗せることができる。受信者は送られてきた思念波を自分の思念波とリンクさせることによって、自分が見ているように見える仕組みだ。


 ただし今、見てるものと脳内で展開している映像がオーバーラップして見え、慣れないと3D酔いのような感覚に襲われることになる。


「十三夜に頼みがある。この地のネフライト鉱山も空洞になってるはずだから、ゲートから入って、空洞に潜り込める場所を先に探してくれないか。そのネックレスから映像を見てるから。それと何かあっても深追いしないように」


「ワカッタ、レイジにもオナジように見えるノカこの不細工ネックレスで。ウフフ。アタシは防護用の護符イラナイシ、ダイジョウブ。サキにイク」


「ゲートに入る前に持ち物チェックする。まず十六夜から」


「我、複製護符有り。実態化不可」、


「次、十五夜」


「複製護符持ってます。実態化不可」


「よし次に信士」


「コピー護符有り、リボルバー、魔弾三つ装填、伝説級翡翠二個装着済みです」


「サク!」


「護符持ってる。リボルバー、魔弾六つ装填してるよ」


「最後に俺だ。護符有り、ダブルバレルショットガン、魔弾に二つ装填、伝説級翡翠二個装着済み。変幻不可」


 これが今の総戦力。凶悪巨大蜂と戦ったときより遥かに戦力は向上していた。十三夜の偵察もある。『明けの明星が消えるときに活動が一瞬停止』という情報を領主九条から得ていたが、令時には、その時が最大チャンスであることは分かっていたが、何故か不安が消えなかった。停止の代償にそのときだけは無敵なんてことがありそうに思えたからである。停止が解けた一瞬を狙うように、ダブルバレルショットガンで二発の時間差撃ちを、脳内シミュレーションを繰り返していた。ただ、まだ令時は実際に撃ったこともなかったが。


「よし、皆ゲートをくぐるぞ!」


 一瞬、無機質な思念波から抵抗を受けたが侵入することができた。凶悪巨大蜘蛛は、思念波のゆらぎから侵入者が現れたことを察知していた


 ネフライト鉱山までは階段が続いている。中ほどまで登った時にネフライト鉱山上部に目をやると、緑に煌めく四つの点がはっきりとこちらを見つめているのがわかった。それは、蜘蛛の眼であった。蜘蛛の眼は種類によって違う。単眼が存在しない無眼から、二、四、六、八個まで多種ある。煌めいてるのは四つの単眼蜘蛛であった。


「十三夜からの投影画像が送られてきた。空洞内を飛んでいるようだな。ということは入口を見つけたか」


 令時は紅のドラゴンで空を飛べたので、十三夜からの飛行投影画像は爽快感を覚えたが、自身は地上の階段上の景色なので少しよろめいた。


「3Dの脳内の統合に早く慣れないと眩暈が収まらない。空洞内への入口はあそこか、なんとかいけそうだ。サクはちょっときついかも。最上段まで登りついたけど、何段あっただろうか? 少年の身体なので息切れがしない」


 明けの明星の高度は先ほどより指二本分ほど上昇し、約十分経過した。輝度はさらに増していた。まだ、時間は十分にある。十三夜が巨大蜘蛛の映像を送ってきていた。


「それ以上、近づくな! こっちが行くまで待機しろ」令時は思念波を十三夜に送った。


「ワカッタ。アイツ眼が四つモアッタ。コッワ!」


 ネフライト鉱山の空洞内への入口は断崖の向こう側にあった。


 上に少しせり上がり、二メートルほど間があって、底は社の下まであるようだ。


「我々男子勢はジャンプすれば行けるか。いやサクは無理だな。女子勢も無理か」


 令時は断崖を行きよい良く飛び超えた。


「信士も、こちらにジャンプして渡れ」


「いえ、令時さん自分はここで橋が架かるのを待ちます」


「えい!」


「えいって、サク、それじゃあ届かないよ……」


 よくある動画で猫がテーブルに飛び乗ろうとして、気は飛んでるが、そのまま万歳状態で落ちていくという光景と同じであった。サクが空中で上昇から下降に移る、その止まったように見えた瞬間に、信士が咄嗟にザイルロープを、サクのベルトにフックを掛けて引き止めた。


「おお、すばらしい! 漫画の場面といっしょじゃないか」令時は苦笑しながら、信士と一緒にザイルを引っ張り、サクを引き上げた。


「ジャンプして渡れると思ったんだけど」


「まあ、いいさ。勇気は認めよう! な信士」


 令時は記憶実体魔法で梯子を錬成した。もう無機質の物質で複雑な構造ではない場合は、記憶にあるものを、そのまま実体化させるのは、呼吸をするのと同じくらい造作もなくできるようになっていた。


「令時、ご苦労じゃな。」


「令時さん、お疲れ様です」


 断崖に掛かった梯子の両端付近は過重がかかる度に、パリッ、パリッっとネフライト鉱が薄く割れて剥がれ落ちていく。ここから先の空洞は、左片面が崩れた状態であり星形石へは直線コースで登って行けそうである。


 内壁は緑の半透明で、右が断崖になっていた。前面の壁は薄く、明けの明星の光が、はっきり透けて見えていた。明けの明星は更に指二本分ほど上昇しており、東の空も白み始めているようだ。


「レイジ、星形石はこのうえにアルヨ。クモがソコニ巣をハッテタ、


 ソイツは目が四つもアルンダヨ。イヤダー」


「偵察お疲れ。十三夜は、蜂妖精女王なんだからさ、同じ昆虫系だし、話し合いで何とかならないもんかな。」


「ダメだよ、クモ族なんか。クモ族は昆虫ではないし。ナカマが何匹食べられたコトカ。レイジ、クモなんかコウダヨ、コウ。ヤッツケないと」十三夜は手の平を横にして首にあてて答えた。


「そうか。やるしかないのか」


「信士、あそこの岩陰まで進むぞ」


 四ツ眼の凶悪巨大蜘蛛は、星形石の中心に鎮座しており、その周りに巣が張り巡らせられていた。巣は片側の壁面まで届く幾何学模様を描いて広がっていた。縦糸、横糸が交差しているところにある丸い粘着玉には、皆、同じ方向に一つの光点を映し出していた。その光点は、壁を通して、明けの明星から受ける光であった。


「見事な蜘蛛の巣だな。昔、朝焼けの鬼蜘蛛の巣を見たときと同じだ。その時も、小さな水玉のつゆが輝いていた」


(まずは先制攻撃で眼を攻撃するか。あの大きさだと一発では無理か。いや、信士のリボルバーは前回より格段に威力は上がっているはず)


「信士、作戦だ。明けの明星が消える直前に、魔弾二発で、あいつの四つの眼を潰せ。タイミングは唐條に任せる」


「令時さん、唐條はここにはいません」


「そうだった。すまん。俺がタイミングの指示を出す」


 タイムキーパの助手の唐條は、ここには今いない。令時は唐條からもらった護符に手を無意識に手を添えた。


「俺はダブルショットガンで明けの明星が消えて、やつが停止した瞬間と停止解除瞬間に連続して撃つ」


「僕は?」


「サクは、蜘蛛の動きに合わせて足を狙え、信士が撃った後に自由に撃て。ただし最後の一発は残すように」


「ということは、五発まで撃っていいんだよね」


「そうだ」


「十三夜、やつの攻撃はどんなものかわかるか?」


「ワタシとオナジ、ドクとイトダヨ。イトはまずい、なんでもスパって切れてしまう」


「そうか、糸は粘着系ではなく触ったら切れるのか」


「十六夜と十五夜は後方待機だ。何かあったときは援護を頼む」


「姉さん、今回も私の活躍は無しかな。早く令時さんに認めてもらいたい」


「まあ、焦るなそなたの実力は、我が良く知っておる」


 明けの明星は更に指二本分ほど上昇していた。だいぶ東の空が明るくなってきた。決戦は近い。蜘蛛もそれには気づいていた。お互い思念波を交じ合わせたのである。問答無用と。

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