第10話:時空の神玉とは

 座敷は広く、中央の大きなテーブルは円形で掘りごたつ式になっており、銀の大皿、小皿には色とりどりの料理が盛られていた。


 薄いピンク色のクリスタルグラスには、白い飲み物が注がれている。小さな桜の花びらを象ったシャンデリアからの光が、クリスタルグラスをいっそう煌めかせていた。令時にとって、こんな豪華な宴会は久しかった。記憶にある限りバブル時代に経験した限りである。信士なんかは、はじめての豪華な宴会らしく、目を丸くしていた。


 白い飲み物は炭酸入りの乳酸飲料の味のようで美味しかった。


 蜂妖精女王の十三夜には、体に合うようにショットグラスが用意されていた。十三夜は、出された炭酸入り乳酸飲料を飲み干し、何か酔っぱらっている様子だった。皆、夢中になって食べており、テーブルマナーなんか無視のようだ。ナイフとフォーク以外にアイスピックみたいなものがあり、これは小粒の実を一粒ずつ刺して取るようであった。


「早神様、上鳥羽集落の鎮守の杜の魔物はよく退治なされた。魔物のせいで、かの集落ではこれまで翡翠の採取が思うようにいかなかったと聞き及んでいます」


「鎮守の杜の頂上を旋回していた凶悪巨大蜂は、信士がリボルバーで撃ち落とし、私が神炎のブレスで焼き払いました。激首領蜂は、サクがリボルバーで仕留めました」


「領主様、これだよ、神二インチ六連装リボルバーっていうんだ」


「ほう、これはすばらしい。神級の武器をこの子は扱えるんですね。ここからも、巨大な激首領蜂の影が山と重なりあっているのが見えていました。撃退されたということは、時空の欠片を手に入れられたんですね」


 令時は今更、激首領蜂がこの酔っぱらっている蜂妖精女王の十三夜だとは言えなかった。


「はい、一つ欠片手に入れました」


「ぜひ見せて頂けますか」


 令時は、シルクのハンカチを取りだし開けた。


「これです」


「これが、これがあの時空の欠片ですか。はじめて実物を見ました」


「誰か、例のあの資料を地下の書架から持ってきてくれ」


 ほどよくして、執事が資料を領主に手渡し、テーブルの上に資料が置かれた。


「早神様、これをよく見てくだされ。我が家に伝承されている古文書です」


「この資料にある図は?」


「これは時空の欠片の構成図です。一から十一のコアナンバーが付けられており、中心核がコアナンバー十二となります。各コアの説明文が記載されているのですが、いまだ解読できておりません。この欠片を全部集めて、中心核の周りに十一個を配置すれば、『時空の宝玉』を作ることができます」


「こういう組図になるのか。十六夜知ってたか?」


「いや、我も各欠片の形状はさすがに知らない。中心核があり、それを覆う外殻がある時空の神宝は知っておる。時空の宝玉とは時空の神宝のことだな」


「そうか、そうすると俺が今持っている欠片のコアナンバーは、この組図からすると、コアナンバー四だな」


 令時もこの資料に記述されている文字は読めなかったが、数字だけは漢数字になっており、読み取れた。各欠片のコアナンバーの横には説明があるが梵字のような象形文字で読めなかった。信士なら共感覚で何か読み取れるかもしれないと思った。


「九条殿、この資料を模写しても構わないでしょうか」


「問題ありません。早神様が時空の宝玉である神宝を復元するということを村長からの手紙で知って、この資料をお見せしようと思っておりました」


 令時はスマートフォンで、資料の表、裏を写真に撮った。


「おお、それは記録できる石版ですね。この集落にもありますが、早神様がお持ちの石版は小さいです」


「そうですね、城門でユツキちゃんがタブレットで手紙の内容を、画像で送っているのを見ました」


「この機械はタブレットと呼ぶのですか。過去の遺物でここでは二つしかないのです。最初は何かわからなかったのですが、ユナが偶然触ってたら画像が送られてきたのです。その他にも使い道があるようですが、詳しくは分かっておりません」


「そうですか、今世で作られたわけではなくて、過去の遺物なんですね」


「そうです。太古の過去はこれを作れるほど文明が進んでいたようです。それはそうと、お頼みしたいことが一つあるのですが聞いて頂けますでしょうか?」


「はい、内容によりますが。なんなりと」


「この集落の東の山の鎮守の杜には、魔物が住んでおり、おとなしいのですが、月に一度村に降りてきては、食料を奪いに来て、村人もさらっていき、困っているのです。その魔物は水が嫌いらしく水路の外には出られないようで、我々は、いつも外堀と内堀の間に引き寄せて戦っているのですが、傷一つ付けられない状況です。退治をお願いしたいのです」


「わかりました。引き受けましょう」


「報酬は時空の欠片を得られることでお願いします。東の山の鎮守の杜には、時空の欠片があると伝えられており、欠片は星形石に小さく二つセットで収められております」


「小さい欠片がニつあるのか、組図から大きさで判断すると、コアナンバー五、六だな」


「皆、時空の欠片採取の為と村人の為、魔物退治に行く。いいよな」


「まあ、令時がそういうのなら。その魔物、水が嫌いなのか」


「イイヨ。レイジがイクトコはワタシもイク」アルコールを含んでいない白い飲み物でなぜか十三夜は酔っており、ホバリングが安定せず、あっちにぶつけ、こっちにぶつけになってる。可愛いもんだった。それをみて令時は無意識にほほ笑んでいた。


 時空の欠片は中心核を含めて十二個だが、この集落の鎮守の杜に二個存在している。他はどこにあるのか今はわからない。この洛南地域に密集、あるいは京都一帯かもしれない。何かの衝撃で破壊されたなら、そんなに広範囲には散らばらないはずだ。人が運びださないかぎりはと令時は考えた。


「早神様、時空の欠片は洛南地域にあります。中心核は山城地域にあると伝えられています」


 九条家はある程度、思念波を読み取ることができた。令時の思考を読んだようだった。


「山城にはコアナンバー十二の中心核は存在しない。先代令位守護者の伝承だと、星形石を発見したが、すでに星形石は破壊されて無くなっていたと」


「まて、十六夜ということは他にも誰か収集者がいるのか? 俺たちの目的と同じなのか」


「同じかどうかは分からぬ」


「そうか、一つは手に入れているので、出し抜かれることは今のところないか」


「十六夜様、山城集落とは近年往来がなかったのですが、星形石は破壊されていたのですね。あそこにはもう魔物はいないのでしょうか?」


「いや、彼の地には地下七層の未踏の地下迷宮があるが内部の詳細は不明じゃ、魔物はそこに潜りこんだと思われる」


「集落の住人は?」


「誰も居らぬ」


「そうですか陥落したのですね」


「そうじゃ。もしかして中心核はその地下迷宮内に持ち込まれたのかもしれないが、今のところ探索経路がみつからず放置状態だ」


 令時は山城の地下七層の未踏の地下迷宮と聞いて、唐條がいた場所ではないかと思った。それならばいずれ探索の方法、経路を見つけて救出にいかねば。待っていてくれよ、必ず迎えに行くからとあらため、決心した。


「九条殿、この時代でも土地名は洛南、山城なのですか?」


「はい、遥か昔からそのように呼ばれております」


「では洛外の宇治は知っておられるかな」


 令時は自分の生まれ故郷を聞いてみた。


「知っております。宇治集落ですね。山城へ行くまでの最大の地域集落です。そこの領主とも懇意にしております。もし行かれるのでしたら、紹介状をお書き致します」


 幾千年後のこの世界でも宇治は宇治としてあったのである。とたんに懐かしい記憶が令時に蘇ってきた。抹茶の香りだった。宴会も終わりに近づき、座は程よく談笑も交じる中、白の陶器に入った緑の飲み物と菓子が振舞われた。どこかに行ってた子供たちも、香りに誘われて戻ってきて菓子を頬張りだした。菓子は茶団子のようなもので甘くてやわらかい。


「お茶の作法もあったものじゃないな。この世界にはわびさびとかはないか」


 わびさびの思念波なんて九条殿には理解してもらえないだろうなと、令時は九条を見やった。


「令時様、鎮守の杜の蜘蛛の魔物やっつけてくれるんでしょ?」茶団子を頬張りながら、ユナとユツキは声を揃えて言ってきた。


「ああ、この集落の為にもな」


「早神様、今日はここで休息をとられてはどうですか」


「九条殿ありがとうございます。それでは今日はここに泊めさせて頂いて、明日出発します」


 蜘蛛か。昆虫系だな。それならクワガタとか見てみたい気がした。


 昔、小学生のころオオクワガタを一度だけ採ったことがあり、その時近くに飛んでいたスズメバチなんか目もくれず狂喜乱舞した記憶がよみがえって、令時は笑みを浮かべていた。


「令時さん、またなんか微笑んでる」と十五夜は、令時の思考を思念波で読み取ろうとしたがわからなかったようだった。

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