第8話:星形石封印解除と激首領蜂

 サクは信士のすぐ後ろでさっそく自分のリボルバーを、星形石に向けて狙いを付けている。


 まだ子供なので、両手でグリップするように信士がにわかに教えていた。筋はいいようだった。


 信士は、その姿勢から力量がわかるらしい。


「令時さん、星形石封印解除は、私にやらせてください」


 信士には星形石の周りに順に記号が連鎖しているのが見えていた。解除順があるとのことだった。


「順番に触らないと解除できないみたいなので」


「よし、じゃあ解除は信士に任せて俺は、スナイパー役で、後方で待機する。俺の射撃の腕には頼るなよ…… 魔物が出てくるかもしれない

 」

 後方で見守っている十六夜は、「随分とまあ慎重のようだな。激首領蜂なんて我の爪で一撃だがな。まあ、ここでは変幻できないのが悔やまれるが」と何か知っているような口ぶりで言った。


「姉さん知ってるの、この星形石に封印されている魔物が激首領蜂だってことを」


「まあな。激首領蜂がこの社に住んでいたと噂で聞いたことがある。さてどうなるか見ものだな」


 信士は星形石の一時に配置されている星型の文様から、順に左回りに触っていった。最後の五時に配置されているシグマ様の記号の文様に触れた。星形石から放出されていた虹の光に、五か所それぞれから黄金の光が絡みあった途端、雷鳴がとどろき、星形石が割れて霧状のものが空洞内を満たした。


「あれは!」


 ドン、ギューン。「やっつけろ!」


「あの声はサクか、たまらず二発、魔弾を発射したようだ」


 凶悪巨大蜂よりも更に倍はあろうかと思われた影が割れた星形石の上空に、陽炎のようにゆらいでいた。

「おかしいな。サクが放った二発の魔弾の光跡からして奴の眉間あたりに正確に当たったはずだけど、着弾音がしない。代わりにすり抜けてネフライト鉱壁面が割れる音がした」


「サク、それ以上、撃つな」


「信士兄ちゃん、当たったのに反応がなんにもない」


 サクが放った魔弾の光跡の周りの霧は無くなっていた。それとともに影も消えている。


「信士、大丈夫か? あれは?」


「イヤダナー、ナンニモしていないのに、いきなり撃つなんて。あれ? 凶悪巨大蜂は落とされてる。悪さしちゃったカナ?」


「お前は悪さしない魔物か? 悪さしない魔物には撃っちゃだめなんだ。決まりなんだ。でもさっきのは、影だからいいよね」


「私はナニモしないよ。時空の欠片とともにここに閉じ込められてたんだ。誰か気づいてくれるようにと、辛うじて虹色の光を出しツヅケテいたんだ」


「これが、激首領蜂? あの影は虹の光が霧に散乱して巨大な蜂に投影されていただけなのか」


「ソダヨ」


「久しいのう、蜂妖精女王。いつ激首領蜂という通り名が付いたんだ?」


「あ、その声は十六夜。久しぶりだな。ナニシニここに。助けに来てくれたのか?」


「まさか、あの時は酷い目にあった。今は時空の欠片を集める旅をしている」


「十六夜の知り合いか? なら戦う必要もあるまい。俺は令時という。十六夜と一緒に時空の欠片を集めている。やっと最初の一個を見つけた」


「まあ、知り合いといえばそうだが。昔、こやつの巣分かれの移動で、魔物蜂たちの大群に追われたことがある」


「そうか、蜂の大群に追われたのか。そりゃー、それだけでゾッとする。これが時空の欠片か、大きさからして、元の神宝に組み立てるには全部で十二個ぐらいの内の一個か」


「スマイナイネ、あの時は巣別れで移動中だったんで殺気だってたんだよ。でも、今は配下は一匹もいなくなってしまったな」


「激首領蜂って、蜂妖精女王だったんだね。小さいじゃない。令時のミニドラゴンと同じサイズだ! かわいいし、またペットが一匹増えたな」十五夜は、小さくてかわいい生物に目がなかった。蜂妖精女王は十五夜によって無理やり旅の一行に加えられた。


 妖精といえども蜂のキメラで、オオスズメバチの女王蜂でも四センチメートルぐらいなのに、体長は二十センチメートル程もあった。


 令時は蜂妖精女王の顔を覗き込んだ。


「妖精形態とあって人型だし良くみると、たしかに可愛いじゃないか。巨大蜂達はたしかに昆虫種のようで外骨格で覆われていたけど、この蜂妖精女王はまるで違う。蜂ではあるが人のように見える。この世界の生物は巨大化、縮小化、キメラの変幻ありの世界なのか。今更だけど俺も変幻できるしな」


「チョット、何よ。そんなに近くに」


 蜂妖精女王は顔を赤らめたように、令時には見えた。


「あらためて、俺は早神令時、令時だ。お前、名はあるのか?」


「名ぐらいある。十六夜が付けてくれた」


「で、名はなんと」


「ワスレタ」


「は? 十六夜こいつの名は?」


十三夜つきみだな」


「ツキ…… そうだツキミだ。長い間眠ってたから思い出せなかったよ」


「それにしても、十三夜つきみか、十五夜かぐや十六夜いざよいって聞くからに関連してるじゃないか」


 十六夜は令時の疑問の思念波を読み取って答えた。


「そうだな、我らと同じ人型の妖魔で十夜族だ。十三夜は一番下の妹になる。数字が少ないほど若い。一夜は百年の歳の差がある」


「わーい。妹だ。はじめて会うよね」


 十五夜は姉の十六夜しか知らず。妹が出来たことで喜ぶというか、上位に立ったというかわいい優越感を醸し出していた。


「ヨロシクネ。十五夜」


「十五夜姉さんと呼びなさい。姉さんと」


「ショウガナイナー。十五夜姉さん」


「で、変幻したら何になるの? わたしらは変幻できる」


「コノママ」


「え? 変幻できないの?」


「この人型と蜂の中間状態です。ゴメンナサイ」


「そっか。まあいずれ十六夜姉さんの指導でできるようになるはずだ。そうすれば真の激首領蜂に成れるかもね」


「ホントニ?」


「多分できるようになる。令時も紅のドラゴンに変幻できるようになったし」


「ヤッター」


「こいつが激首領蜂に変幻できるようになったときは、あの霧に投影された影のような容姿になるんだなきっと、敵に回らなくて良かった。変幻は十夜族の特徴だと言ったな。でも俺は十夜族ではないし」


 十六夜は、さらに令時の疑問の思念波を読み取る。


「令時は特別だ。令位守護者はその内包される魂によって変幻できる。過去の令位守護者も同様だ」


「なるほど、ちなみに十夜族って最低、最高ナンバーはどこまであるの? 十ということは最高は十九で最低は十なのか?」


「最低は、十三夜だ。十二、十一、十は未来で今世にはまだ存在しない。最高はナンバーは……」


「最高は?」


「その昔、古の始祖である。千夜一夜である。後世の令位守護者が、千夜一夜(アルフ・ライラ)と名付けておる」


「ちょっとまってくれ、千夜一夜なら計算すると十万年超える! この世界に時空位相で降り立って幾千年経ったとしても、ほぼ十万年! ホモ・サピエンスがやっとアフリカから世界に拡散しようとしている時代じゃないか! そのころから存在していたのか? ここは、俺の居た世界から時は繋がっているのか? それともまったく違う平行世界なのだろうか?」


「この世界は令時がいた世界から繋がっておる。我らは、ホモ・サピエンスとは違う生命樹の系統だ。ずっと人類を守護してきておる。時空の欠片を集めて時空の神宝を作れば、千夜一夜を時空位相によって呼び出せる。千夜一夜と今世の令位守護者の令時とでこの混沌の世界を正常に再構成ができるはず」


「この世界は混沌なのか? まあ、何かしら尋常じゃないことは崩壊した風景からも想像はつくが」


「そう混沌としておる。今世を再構成するのに、まずは令位守護者を呼び出した。呼び出されたのがお主、令時である」


「千夜一夜のアルフ・ライラってアラビアンナイトの世界観じゃないか。歴代の令位守護者もこの千夜一夜を知っているということは、やはり元いた世界から繋がっているのか」


「ところで十三夜、今回の時空の欠片の片割れのありかを知っていたな。教えてくれるか」


「ワスレタ」


 バン!「思い出しなさい」


「十五夜姉さん、イタイヨ、マッテ思い出すカラ。そうだここからの東の伏見集落っていうトコロにあったはず」


 令時、信士、十夜族の三姉妹とサクが上鳥羽集落に戻ってきた。


 中央広場には心配そうに村人がずっと待っていた。村からは、山中の鎮守の杜付近から薄い緑、紫、虹色の光が混じり合い、ネフライト鉱山を突き破り天に光の筋が通っている光景が見えていた。


 そこには凶悪巨大蜂を凌ぐ影が映し出されており、二発の銃弾の音がこだましたとたん、影が消えさったのを、村人全員が目撃していた。


「サク!」


「母さん、やったよ、凶悪巨大蜂も激首領蜂もいなくなった。やっつけたんだ」


 サクは神二インチ六連装リボルバーを見せながら得意げに言っている。


「そうかい。あの最後の銃声は、お前がその銃で撃ったものなんだね」


「そうさ。でも……」


「でも?」


「なんでもない。あ、村長さん、もうあの山には凶悪な魔物はいなくなったよ」


「そうか、良くやったぞ、サク。この村の英雄だな」


 サクは気まずかった。影が消え去ったのは、結果的に自分の二発の魔弾で霧が消えて拡大投影されていた影が映らなくなっただけだ。


「まあ、いっか」


「それで、あの小さい蜂みたいな妖精は?」


「あ、あれはね。激首…… じゃなくて、蜂妖精女王の十三夜さんだよ」


「おお、このかたが蜂妖精女王様か。鎮守の杜をずっと昔から守護されておられる」


「ソダヨ、ナニモしてないけどネ。でもあそこに空中庭園の楽園ができたからいってみてネ」


「おお、空中庭園、伝説の空中庭園、そうですかそんなすごい構造物を作って頂いたんですね」


 十三夜も気まずかった。自分が創造したのではなくて、姉の十六夜が創造したものだったからだ。


「マア、イッカ。同じ十夜族なだだし」


「今回は、この二人の手柄にしておこう。この上鳥羽集落に住む者だし何かと都合がいいだろう。信士、十六夜もそれでよいと思っているようだし。十五夜は不満のようだがここは抑えてもらおう」


「母さん、村長さん、僕はね兄ちゃんと一緒に時空の欠片を探しに行くことにしたから。ここだけじゃなくて、この世界を救うんだ」


「まあ、そんなこと言って。何もできやしなさ、ここに残っておくれよ」


「もう決めたんだ。いいよね、村長さん」


「そうだな、時空の欠片を集め終わったら必ず戻ってくるんだよ。それとお前のもってるその銃は小さいけど強力だ。絶対に人に向けてはいけないよ」


「わかってるよ、兄ちゃんとも約束した」


「そうか、そこまでいうなら行っといで。父ちゃんもこの村を出てから音沙汰がないし、寂しくなるね。必ず戻ってくるんだよ」


「父ちゃんも見つけるから」


「アノー。ソンチョウー。私もこの村から出るから。一緒に連行され……、行くことになったカラ」


「え、十三夜様もいらっしゃるのですか。鎮守の杜は誰が守ることに」


「僕の持ってる護符を置いて行くよ。それを戻るまで奉っておいて」


「サクや、その護符は持っていろ、道中それがお前を守ってくれる」


「では、こちらの護符を代わりに村長に授けよう、神聖効果はサクの護符より落ちるが凶悪巨大蜂ぐらいの魔物には耐性があるだろう」


 令時は記憶実態魔法でサクが所持している十六菊花紋が刻まれた護符を二枚作製した。一枚を村長、もう一枚をサクの母親に渡した。


「しかし、この護符ってどういう仕組みで思念波を制御できるのだろうか、この文様自体に何か力があるのだろうか? それならもっと大量にコピーしてバラまいてもよいんだが」


「令時さんそれはだめだ。翡翠の制御経路との干渉が多くなると地域一体のバランスが崩れて崩壊する。それがこの世界のなれの果てだよ。ここは、まだましなほうだね」


 十五夜は知った顔で言ってきた。


「十五夜もまともなこともいうんだな。護符の作成は今後慎重にするよ」


「それはそうと、次の探索場所は伏見集落だったな、ここから東か。地図からすると伏見稲荷あたりか」


 令時はスマートフォンを取り出してオフライン地図を見ていた。時空位相された場所が四条と仮定し、そこを起点としてマップに印をつけていたのである。現在は竹田・上鳥羽あたりか。


「紅のドラゴンになればひとっ飛びだが、人数が多く全員は背に乗せられないな。十五夜、牛ドラゴンになって、牛車を引っ張って欲しい」


 村人が壊れた牛車を直してくれていたのである。


「わかった。令時さんの頼みなら。ほんとは信士の頼みしか聞かないけど」

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