第7話:星形石へ

 数百メートル先の対面の壁面にある星形石へ辿れるすべはなかった。


 令時は記憶実態魔法で何とか向かい側までの構造体を練成しようと思ったが、覚えたての記憶実態魔法の技量だと、簡易な吊り橋すら無理なようだった。


 十六夜は令時を見透かすように「お主の練成技量ではまだ巨大な構造物は無理じゃ。師匠の我でないと。構造物のイメージをよこせ。我が代わりに練成してやる」と言った。


 いつの間にか、彼女は令時の師匠を宣言していた。


 容姿は十四、五歳の少女だが実際は歳も相当重ね、修練も深く行っているようで、巨大な構造物を錬成できるのであった。


 令時は十六夜に言われて、過去に実際、高所に行った場所の記憶を呼び起こしながら、どのような構造物を練成したらよいか思考した。


「東京スカイツリーをここに配置すれば、ちょうど高さが展望回廊がこの付近になるか、梅田スカイビルの空中庭園ならば、向こうまでの直径が足りない気がする。マリーナベイサンズの片持ち梁構造の屋上の空中庭園を配置すれば」


 そう思いを巡らした思念波を十六夜に送った。


「久しぶりに十六夜姉さんの巨大構造錬成術が見られる。令時さん、巨大な構造体のイメージを姉に渡して」と十五夜は、昔小さいころに、姉が雲を突き抜けるような塔を、練成したことを思い出して待ちきれないようだった。


 十六夜は令時から受け取ったイメージの思念波とともに、令時の記憶から記憶実態魔法へと連動させて対面の壁面へと渡る構造物を錬成した。


 霧の中から、その巨大な構造物が姿を現した。信士とサクは、その圧倒される構造物の美しさを見て呆然としているようだ。


 巨大構造物には展望回廊があり、中央には円形の空中庭園があった。そこには円形プールが設置されていた。半透明のネフライト鉱石を通して、外からの緑の淡い光が水面に散乱していた。


 円形プールからは水が溢れだし、下層へと滝のように流れ落ちて途中からは、霧のように拡散していた。最下層に落ちた凶悪巨大蜂の魔鉱石から放射される紫の光線がその滝筋を照らしていた。


 令時と信士は無意識に同じ行動を取っていた。スマートフォンでの写真撮影である。ここではデジタルネットワークもなく、SNSには投稿できないことも忘れて夢中に写真を撮っていた。


「すごいな、この情景、俺の記憶が全部無秩序に混合されてるよ! この期に及んで円形プールまでも付属しているし。なんの役にも立たないけど」


「令時さん、この情景すごいですね。3Dでもこんなの思いつかないし。建築構造をまったく無視した造りになってますよ」


「そうだな、どうやって落下を防いで構造維持してるのかまったく理解不明だな」


「僕もこんなの見たことも聞いたこともないし、皇国のお城でもこんなのないと思う」


 十六夜は得意満面の顔であった。十五夜は円形プールを見て相当はしゃいでいた。彼女は十六夜の妹で十二、三歳ぐらいに見えた。


「では我に続け。対面の壁面へ渡るぞ」


「多分ここは上鳥羽集落、いや京都の名所になるな。この村は観光でも成り立っていけそうだ」と令時は円形プールに目をやりながら思った。


 庭園の中央付近に設置されている円形プールはガラス張で、最下層に落ちた凶悪巨大蜂の魔鉱石からと思われる紫の光の点が水中を通して揺らいで見えていた。対面の回廊に差し掛かり、星形石が見えてきた。

「令時兄ちゃん、あれだよ。虹色に光ってるでしょ」


 サクは十六夜を追い越し、星形石へと小走りに走り出した。


「サク! 星形石に触っちゃだめだよ」


「どうして?」


「罠が仕かけてあるかもしれない」


「そうだな、まずここは回りから慎重に調べよう。何か記号のようなものが掘ってある。信士、何かわかるか?」


「星形石の周りに文字記号列が浮かび上がっています。向かい側からは『ここ封印解く者は相対す』と見えていましたが、よく見ると更に『ここ守護す者、眠りより覚める蜂』と読めます」


「ちょっとまってくれよ、また蜂かよ! あの凶悪巨大蜂は最終ボスじゃなかったのかよ」


 令時の落胆は大きかった。


「封印解く前に対策しないといけないな。少なくとも信士が所有している『神三連装リボルバー』は、より強力な武器に改造しないといけない。俺にも武器が必要だ。サク、悪いが今からすぐ、最下層の凶悪巨大蜂の魔鉱石を採取してくれないか。より強力な魔弾を錬成して信士のリボルバーにセットしたい」


「わかった、でも僕にもリボルバーを信士兄ちゃんに作るように言ってよ。前にも約束したし」


 サクは信士が所持しているリボルバーがかっこよくて、欲しくて欲しくてたまらないようだった。


 サクは転げるように下層へと階段を、壁面の切片刃に注意しながら走って下りていった。目指すは紫の光の起点である。


「兄ちゃん達すごいよな。さっき、信士兄ちゃんが持ってた薄い石版のようなもの何だったのだろうか? その中に、いろんな種類のリボルバーの絵があったから、あそこから選んで作ってもらおう。早く採取して戻って、自分用のリボルバー作ってもらうんだ」


 サクは最下層に到達し、魔鉱石を凝視した。紫の光が天井にすっと伸びている。あまり見つめると目が痛くなる。その先端には、さっきいた空中庭園のガラスプールに届いているようで、紫の光点がそこで幾筋にも屈折していた。


「やっぱり、あんなすごい建物はこの世にないよな。そういえば、はるか昔に西の国に空中回廊があったって村長さんから聞いたことがあるけど、そのときは想像もつかなかったけど、あんなのかなー。そうだ見とれている場合じゃなかった」


 サクは凶悪巨大蜂の亡骸と主翼の破片が散乱した中から、注意深く魔鉱石を拾い上げてザックに入れた。

「よし! 急いで戻らなくちゃ」


 サクはもと来た階段を逆に息を切らしながらも駆け上がっていった。最上級翡翠と凶悪巨大蜂魔鉱石が軽くぶつかる音が、時々ザックの中から小気味良く聞こえていた。カリン! コロン!


 令時はサクが最下層へと下っていく姿を追っていた。その姿が見えなくなって程よく、紫の光線が消えたのを確認した。魔鉱石をサクが拾い上げたようだ。紫の光点が点滅しながら螺旋状の光点を描いている。サクが階段を上るタイミングと合っているようだった。


「信士、魔鉱石自体をそのリボルバーの属性部に装着できなのか?」


「無理みたいです。翡翠系じゃないと」


「凶悪巨大蜂の魔鉱石で魔弾は作ることにして、リボルバーに翡翠をもう一個装着できるようにするか。それと一装填に十秒かかるのは長すぎるからもっと短縮できるようにしたいな」


「装填するときに、シリンダーから反発する力があり、押し込むのに力が必要で時間がかかってます。これを逆に吸引する方向に力を向けるようにしたら力を必要とせず自然に装填できると思うのですが」


「よし、その力の方向を逆転させるように練成してみる」


 令時は記憶・仮想・連想実体魔法を使って信士のリボルバーを触った。一瞬、真っ黒になったリボルバーは新たな姿にかわり、銀色のリボルバーに改変された。


「サクが戻ったら、最上級翡翠をもう一個装着してみろ。攻撃力が格段に増加するはずだ」令時は、どれぐらい威力が上がるのかと考えると、もうわくわく感が止まらなかった。

「最上級翡翠一個で、着弾時に超爆発するんだから、二個も装着したら……」


「次は俺の武器だな。日本刀が欲しいけど扱えないから、ここは実用性を重んじてショットガンだな。信士、ショットガンを作ってくれ」


「承知しました。ショットガンか。令時さん、あいかわらずしぶいな」


 信士は3DCADも扱えて、武器にも造詣があり、確実に記憶実体魔法で生成できるようだ。『神ダブルバレルショットガン』を錬成した。


「ブラックのフルメタルかすばらしい! 銃なんてグアムで射撃体験を、一度しただけだが扱えるだろうか。でもこの銃、なぜ二連装なの? もっと多いほうがいいのに」


「いいんですよそのほうが。一発の威力が上がりますから。でも射撃の腕前が必要ですけどね」


「そうか、ではこの銃も記憶・仮想・連想実体魔法を使って改変だ」


「え、まだ使ってもみないうちにグレードアップするんですか?」


「そうだよ。ユーザには現時点で最高品質を提供するのが俺のモットーだし」


「そうでした。それで苦労しましたけどね。ユーザが気づかないオーバースペックはよくありましたが……」


 令時はリボルバーを改変したときの思念波のイメージをそのまま、ショットガンに適用し、性能を向上させた。


 サクが最下層から、息をきらして戻ってきた。


「ちょうどよい。サクにも武器を作ってあげるよ」


「はあ、はあ、やったー。凶悪巨大蜂の魔鉱石とってきたよ」


「ご苦労さん。その魔鉱石は後で魔弾の素材にする」


「信士兄ちゃん、薄い石版に書かれてリボルバーの絵を見せて、そこから選ぶから」


「薄い石版の絵? あ、このスマートフォンのことか。たしかに、リボルバーの気に入った写真をコレクションにしている。どれにする?」


「この菊の文様が入ったこのかっこいいやつ」


 サクは二インチ六連装の菊の文様が入ったリボルバーを選んだ。


「承知!」信士は『神二インチ六連装リボルバー』を錬成した。


「やったー。これだよ。これ」


 シリンダーを出したり入れたり。銃身をあちこちに向けて小躍りしていた。やはりどこの世界でもいる男の子が示す行動である。令時はサクにひとつ約束させた。


「サク、人に向けて打っては絶対にだめだよ。動物もだめだ。わかったな」


「魔物は?」


「何もしてこない魔物もだめ」


「わかった。ようし、次回は僕も魔物退治に参加だ!」


「サクのリボルバーは改変しないでおこう。この世界であまりにもかけ離れた強力な武器が増えてもまずいし」


「さて、皆お待ちかねの属性部に翡翠の装着だ。サク、翡翠を分けてくれ」


「わかった」


 サクはザックから、最上級翡翠を取り出した。でもそれは最上級翡翠ではなくなっていた。ザックの中で最上級翡翠と凶悪巨大蜂魔鉱石が何百回とぶつかり合って変質していた。


「これは! 伝説級翡翠だな。昔、守護者が持っていたのを観たことがある。」以前、十六夜が翡翠のグレードについて話をしたことがあったが、等級には三段階あったが、これは更に上をいく規格外の翡翠だった。


「ほう、伝説級翡翠。これ二個もセットしたらどうなる? 撃った瞬間武器が崩壊しないかな。大丈夫だろうか」


 皆それぞれ、伝説級翡翠と魔弾を装填した。


「よし、これで準備は整った。いいな、星形石封印解除する。ここを触ればいいだな」

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