第6話:上鳥羽集落の凶悪巨大蜂

 ネフライト系鉱山の麓から中腹へは、中が空洞になっており、壁面が筋状にクラックして螺旋階段のようになっていた。壁面の筋状にクラックした先端は、カミソリのように薄く触らないよう慎重に行かねばならなかった。


「令時兄ちゃん、碧色の翡翠モドキの薄い切片には、触っちゃだめだよ。奴がやってくるから」


「奴って?」


「巨大蜂だよ。兄ちゃん達が一匹やっつけたけど、もう一匹さっきより凄いのがいる。ほらずっと上のほうに魔物がいる」


 令時はサクが指さす天井を見上げた。頂上付近を旋回している影が半透明な緑の側壁を通して見えた。


「そうか、サクはこれに触ってあの巨大蜂の片割れに見つかったのか。何かのセンサーになっているようだ。

 翡翠はクラックした奥に埋まっているので、この状況だと、さすがに簡単には採取できないな。

 村人がこの最上級の翡翠を欲しがってもそうそう採取できるものでもなさそうだ。

 村の外れに、俺がしでかしてできた崖に、最上級の翡翠が生成されたから、もうここに危険を冒してくることもないだろう。さて、時空の欠片ってどこにある?」


 中空内側の側壁をもう何周しただろうか、方角がわからなくなっている。十週以上か、もうすぐ中腹ぐらいに到達するはず。


「サク、時空の欠片を見たところはどの辺だった?」


「反対側のあの壁あたり。ほら向こうに星の形のした大きな石があるでしょ。そこのあたりだったと思う」


「令時さん、あの星石の周りに文字記号列が浮かび上がってます。解釈するに『ここ封印解く者は相対す』と」


「信士、色記号共感覚で解釈できるようになったのか」


「そうみたいです」


 ピシ、パリン。後方でガラスの割れるような音がした。


「信士、触っちゃったよ。どうなるの?」


 十五夜が触れたようだ。服が避けているが怪我はない。下層から碧色の薄い切片が振動し、上層に伝わっていくのが見えた。


 半透明な側壁を通して外に見えていた大きな影が、頂上に移動したかと思うと、そこから一気に内部に入り、何かが降下して来るのが見えた。


「サク、下がれ! 十六夜、十五夜、もっと下がれ。隠れろ」


「信士、魔弾を全弾撃った後、どれぐらいの時間で補充可能だ?」


「三十秒ほどかかります」


「三十秒もかかるのか、複雑なデータ検索でも三秒で収めろってあれほど…… そのリボルバー改善の余地は大いにありだな。二発までは、自分のタイミングで撃て」


「承知しました」


 凶悪巨大蜂が迫ってきた。翼開長はゆうに百メートルはあるようで、大型旅客機並みの巨大な羽だった。


 迫るにつれ風圧が高まり思念波の圧力も増してきた。排除するという無機質な冷たい思念波だ。


 信士は最初の一発を一直線で向かってくる凶悪巨大蜂の眉間を狙って撃った。凶悪巨大蜂は一瞬、横にずれ、同時に針先から毒液を放出してきた。魔弾は眉間を外れて肩と左翼の付け根に着弾。


 ズダン! 


 青白い光が膨張しながら爆発し、凶悪巨大蜂の四翼あるうちの左の主翼をもぎ取った。


 シャー! 


 凶悪巨大蜂の一線の毒液が令時達の前に降ってきた。前方のネフライトの階段は解けて途切れてしまっていた。


 凶悪巨大蜂はバランスを失いながらも、まだホバリングしていた。第二撃を準備しているようで、腹から針へ膨らみが移動しているのが見えた。


「あの毒攻撃を防御しないと」


 令時は記憶、仮想実態魔法でダイヤモンド製の防御壁を前面に無意識に生成した。信士が撃った二発目の魔弾は、青白い弾筋を描き、光の軌跡は眉間と右の主翼の間へと向かっていた。


「どうやら、あわよくば眉間に外れても右の主翼を落とそうということか。信士らしいな。俺だったら眉間必中で後は運まかせかにしてしまうところだな」


 ズダン! 魔弾は凶悪巨大蜂の眉間をはずれ、右の主翼も外れて右の副翼に着弾し超爆発を起こした。凶悪巨大蜂は、それでも沈まなかった。


 凶悪巨大蜂の第二の毒液攻撃の反撃が来た。ホバリングが安定していないせいか、ダイヤモンド製の防御壁の上部に毒液がそれて着弾した。


「第二攻撃は防げたか」


 令時は凶悪巨大蜂が発した無機質な冷たい思念波から、その内容を部分的に理解できた。


「ニンゲン、ナニユエ、ココヲアラス……」


 ネフライト鉱山の巨大な中空内は、凶悪巨大蜂がゆうに旋回できるぐらいの広さがあったが、ずっとホバリングして空中に止まっていた。凶悪巨大蜂は逃げるつもりは、微塵もないようだったがホバリングは安定していないように見えた。


 信士が凶悪巨大蜂へ放った二弾目の魔弾の音がまだ周囲に共鳴している中、凶悪巨大蜂からもぎ取られた右の副翼が最下層へ青白い光を反射しながら落ちていき、ガラスが割れるような大きな音がした。


「最深部まで十秒ほどか。とするとここは、音が伝わった距離の分を差し引いて高度四百メートルあたりになるな。俺は、こんな時に何を計算しているのだ。信士の魔弾は後一発。放出タイミング重要だな」

 ダイヤモンド製の防御壁で凶悪巨大蜂からの第二攻撃を防ぎ、令時は凶悪巨大蜂に向けて、生理的に駆逐しないといけないという思念波を放った

 。

「蜂はだめなんだよ、子供のころクワガタ取りで、いつも横にオオスズメバチがいるし邪魔なんだよ!」

「ココハ、トオサヌ」


「信士! 最後の魔弾を、天井の巨大なあの切片壁を狙って崩せ!」


「承知しました」


 ズダン! 魔弾から放たれる青白い光の軌跡は、凶悪巨大蜂の上部をすり抜けて天井の壁面に着弾し、爆発した。


「魔弾、再装填しておけよ。急げ!」


 天井の壁面のクラックしたところから刃先のするどい一辺の切片鉱石が凶悪巨大蜂へ襲い掛かり、右主翼をもぎ取った。凶悪巨大蜂は四翼の内、三翼を失い、ホバリングを保てず、落ちっていった。


 凶悪巨大蜂は、まだあきらめていない、という無機質な冷たい思念波「マダダ」を発しながら、最深部に落ちていった。


 サクは後ろのほうで飛び跳ねて喜んでいた。十六夜、十五夜も無事なようだ。


 だが、凶悪巨大蜂は最深部まで落ちきってはいなかった。


「あの巨体で失速して四百メートル下まで落ちればもろともないのに。しぶとい奴め」


 凶悪巨大蜂は側壁に糸を吐いて落下を防ぎ、下層からの反撃の毒液が放たれ、必死の思念波が伝わってくる。

「まずい。サク達の場所にダイヤモンド製の防御壁生成は間に合わない。信士の魔弾装填はまだ時間がかかる」


 一瞬にして悟った令時は、無意識にドラゴンに変幻していた。サクと自分のオリジナルの護符以外の護符がすべて消滅した代償として、局所的に結界が張りめぐらされた中、ミニ紅のドラゴンに変幻したのである。


「神炎のブレス! (思念波もついでに放った。消滅せよと)」


 サイズはミニであるが、それでもこの空洞内では十分威力がある。逆にミニであるがゆえに、ちょうどよかった。通常サイズの紅のドラゴンであれば周囲もろとも神炎で、自身も崩壊していたであろう。


「うわあー。これが手のひらサイズのドラゴン。キュートだよ! 触ってもいいかな?」と十五夜は目を輝かせながら言った。


 令時はネフライト系鉱物の乱れた思念波の下で小さいとはいえ変幻してみせた。護符で結界を張ることができれば、結界範囲が小さいがその中では変幻できるようだった。


 令時は十五夜の周りを周回し、手の平に乗った。


「あち! 熱いよ令時(紅のドラゴン)」


「令時は神炎を放ったばかりだからな。あのミニ神炎は凶悪巨大蜂を焼き払ったのか?」


 令時の放った神炎のブレスは、凶悪巨大蜂の第三撃の毒液を蒸発させた上に、凶悪巨大蜂も視界から消えていた。最新部からは、紫の光が天井へと光跡が届いていた。凶悪巨大蜂の魔鉱石の光であろうことがわかる。


「皆、大丈夫か」


「大丈夫だよ、令時兄ちゃん」


 護符の結界効果が切れ、人の令時の姿に戻っていた。令時は、消費した三枚の護符を記憶実態魔法で再練成し、皆にもう一度渡した。


「えー。もう元にもどっちゃったの。かわいいのに」


「令時兄ちゃん、向かい側の星形の石のところにどうやって行く? 階段は溶けてしまってるし。このままだと歩いて行けない」

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