第5話:上鳥羽集落山中の鎮守の杜

 令時達は道路がえぐられてできた緑の側壁伝いに、サクの案内で上鳥羽集落に向かった。


 上鳥羽集落の中心と思われる広場に着いたときには、翡翠の風車付近で炎の爆炎で焼き払われた巨大蜂の騒ぎを聞きつけた大勢の村人が集まっていた。


「母さん!」


「サク。大丈夫だったのね。何十年ぶりかに巨大蜂が出て、山に行ったと聞いて心配してたの」


「ちょっと翡翠を探して少しでもお金にしようと思って、山に行ったら巨大蜂が出て…… でも、この人たちに助けてもらったんだ」


「ばか! 無理しなくていいんだよ。そんな危ないところに行って」


「でも、大丈夫ほらこの翡翠みてよ、最上級の翡翠だよ。こんなのこの辺で今まで採れたことなかったよね」

 村人はどよめいた。


「たしかにこれは最上級の翡翠だ。もうこの時代はめったに見られないものだ」


「どこにこれが」「こんなのどこに」「これが最上級の翡翠か」と村人は巨大蜂のことは忘れ、口々に叫んだ。


「ほら、北のはずれの翡翠の風車があった所に、緑に線上に輝いているところが、ここから見えるでしょ。そこに採り尽くせないほどできてるから」


 普段この上鳥羽集落は農産物で生計を立てていたが、この後、最上級の翡翠鉱物の産地となるのである。


「あ、母さんこれからちょっと、また山に入らないといけないから。時空の欠片のようなものを見たんだ」


「行くのはおよしなさい」


「心配しないで、令位守護者の令時兄ちゃんも付いてるから。鎮守の杜に行ってくるね」


「私は早神令時といいます。サク君を責任を持って守りますので」


「おお、貴方様は令位守護者様なのですね。しょうがないね。サク、気をつけるんだよ」


 広場から東の方に杜が広がっており、その先に小高い山があった。


 鎮守の杜の入口には門が設置されており、山頂からの無機質な思念波が門から溢れていた。


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「この無機質な思念波は厄介だな。変幻が無効化される。紅のドラゴンには変幻できないぞ。我とて同様じゃがな。歩いて登るしかないか」十六夜は令時を見て言った。


「サク、ここは普通に入れるのか? 尋常じゃない思念波が溢れてるんだが」


「入れるよ、護符さえあれば問題ない」と、サクは胸ポケットから短冊を取り出した。


 そこには十六菊花紋が刻まれ、何か鬼のような姿が図案化されていた。


「おお、これは! この図案は自分が持っている護符(角大師)と似ている。これでこの嫌な思念波を防げるのか!」


「この護符はこの村では最後の一枚なんだ。これがないと山中歩けない。兄ちゃんの持っている護符も同じ効果があると思う」


「ならば記憶実態魔法でこの護符を人数分作製しよう。護符の効果も付随するはずだ。皆、この護符を所持してくれ、サクの持っている護符のように加護してくれる。いくぞ」


 一行は石積みの門を潜り、山頂の中腹まで続く階段を上っていった。山頂から流れ落ちてくる無機質な思念波は、護符のお陰か何事もなく身体をよけていく感じを皆が受けていた。


「あの山全体は翡翠なのか?」


「違うよ、村長が言ってたけど翡翠モドキなんだって、中腹の一部にだけ本物の翡翠があるんだ」


「翡翠モドキか。全体が緑色からしてネフライト系のようだな。ここでは役に立たない屑石なのか。それにしても、山頂付近が気になるな」


 先ほど倒した巨大蜂のさらなる凶悪風貌な魔物が山頂付近を周回していた。令時は無機質な思念波の影響で、紅のドラゴンに変幻できず、倒すには信士のリボルバー武器に頼るほかなかった。


「信士、リボルバーに最上級の翡翠をセットしていたようだが?」


「ええ、令時さん。威力は前に装填した通常の翡翠よりも格段に向上しているはずです。今度は絶対、撃ち落としてやりますよ」


「信士兄ちゃんそのリボルバーかっこいい。欲しいよ」


「時空の欠片を採取できたら作ってやるよ。(ただし子供用…)」


「いいよな、俺も武器が欲しい。変幻できないとなると、何か武器がないと戦えないし。そのリボルバーって三連装のようだけど、どうして? 普通六連装だろ」


「自分でもわかりません、できたときに三連装になっていました。何か意味があるのだと思いますが、三連なので一発の魔弾の直径は六連より大きいので威力はあると思います」


「そうか、まあいい。凶悪巨大蜂が襲ってきたら頼む」


「承知しました。任せてください。」


 信士は、上司である早神統括マネージャへの返答のように答えてしまった。


 石積みの門をくぐった先には、石の階段が続き、両側には石柱が立ち並んでいた。


 この門の先には人は誰もいないとサクは言っていたが、そのとおりで魔物の支配下なのであろう。凶悪巨大蜂は山頂付近を周回しており、そこから離れないようだ。


 各々の石柱の頂部には球が設置されており、その球が連携して無機質な思念波が巡っているようである。


 村の翡翠道路で制御されている思念波とは違う異質な感じを受けた。


 姉妹も異質な思念波を懸念して警戒しているようだった。


「令時さんは、ここでは紅のドラゴンに変幻できないの?」


「そうだね、ここでは無理だ。たとえ変幻できたとしても、手のひらにのるぐらいの子供のドラゴンでしかないな」

「手のひらサイズのドラゴン! キュート! キュートすぎだ!(見てみたい。手のひらサイズ…)」


「ここでは我らも元に変幻できない。たぶんあの山全体のネフライト系の鉱物が我らに悪影響をしているのだろう。思念波の制御がおかしなことになっておる。護符のおかけで守られてはおるが」


 令時は十五夜のお茶目な視線(思念波)を感じた。(キュートという思念波はこのような雰囲気なのか。ウィザードの魅惑関連の魔法ってこの感じの思念波を応用すればいいかもしれないな)


「階段はここまでで、山に登れるルートはあそこから中腹まで登れるよ」とサクは先陣をきって登って行った。


 山頂の凶悪巨大蜂は我々にはまったく興味は無いようで、何かを守っているかのようだった。


「よし、行こう」

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