第3話:連想実体魔法と仮想実体魔法

 十六夜は、その技を次のように説明をした。


 連想実体魔法は、記憶から連想される観念と願望を具現化するもので、記憶実体魔法を基礎に連想魔法を上書きしている。


 前に翡翠を生成するつもりで錬成した結果、すでに磨かれて宝石になっていたのは連想魔法が発動し、願望が具現化したものである。


「連想実体魔法のよいところは、生成物体は、物質的な性質以外に、概念も生成物体に属性が付与できるというものだ」


「概念でもよいってどういう意味? なんか複雑な魔法だな」


「まあ、そう言わずやってみろ」


 令時は機械式自動巻き腕時計から、時間の巻き戻しを連想してみた。時間の概念で、時間を操作できるかやってみたのである。


 未来には数分だけ転移できたが、過去には一秒たりとも戻れなかった。


「過去には戻れんよ、生物を生成するのと同じで、時間を過去に戻すことは神の領域じゃ。過去のどの令位守護者もできなかった」と十六夜は言った。


 令時は自分の腕時計を見ながら戻れないのかと落胆した。未来に行けても、過去に戻れないと意味がないのである。


 機械式自動巻き腕時計には、新たな機能のリューズが一個追加されていた。未来に時間を巻けるリューズであった。


「時間操作を可能にする連想実体魔法を操るとは、いきなりたしたものだな。時間を操作できる時計を錬成したとは。やはり令位守護者にしかできないか」十六夜は、令時の目を見つめながらうれしそうに言った。


 令時は昔からずっと機械式自動巻き腕時計を愛用していた。


 最初の就職時に自身でスイス製の機械式自動巻き腕時計を買い、二十年間オーバーホールをしながら使っていたが、使い方が荒かったせいかリューズが折れて取れてしまった。二代目は日本製の機械式自動巻き腕時計の限定モデルを愛用していた。


 機械式にこだわっているのは、何か有事になり、電池も光もないところに放り出されたときに備えてのことだった。まさしく今おかれている状態である。


 今回、時空位相にまきこまれたが、こんな状況で機械式が役にたったのである。


 十六夜がいうところによると、実態魔法にはもう一つ種類があり、『仮想実態魔法』というらしい。この実態魔法は先代の令位守護者のハヤガミ・リムが得意とした技とのことである。


「お主はハヤガミの一族じゃ、これから仮想実態魔法も修得してもらう」


 令時にはハヤガミ・リムという名にはまったく覚えがなかった。「先代も早神なのか、仮想実態魔法とはどういう作動方法なの?」


 十六夜は額の文様に指をかざし、十字を切ったとたん、漆黒の狼に戻った。さらに狼が一声彷徨すると、今度は少女の十六夜に変幻した。


「このように思考するだけで、仮想の容姿に変幻できるようになる。今の技は自分に仮想実態魔法を掛けた。これは他人にも物にも掛けることができる」


 令時は、ここに時空転移した時に最初に見た漆黒の狼と十六夜のどちらが実態なのかを、今の変幻の状態から理解できた。漆黒の狼のときが実体なのである


 。少女に変化した十六夜では、思念波が体全体を覆って人型を維持しているように感じたからであった。


「仮想実態魔法かやってみるか、まず何になるか、いや、何に変幻できるだろうか? 空を飛べたらいいし、やはりここは少年であれば、誰もが憧れるドラゴンかな。鱗はダイヤモンドより硬い方がいいな。ダイヤモンドより硬い鉱物があったと思うけど……」


 令時が色々考えていると、十六夜が教えてくれた。「ダイヤモンドより硬い鉱物はロンズデーライトで結晶構造は、ダイヤモンドに類似している。我が今まで試行錯誤して生成した物質ではクレナザイトじゃ。ジルコニウム、アルミニウム、チタンでスピネル構造型結晶じゃ」


 十六夜はしたり顔で話してくれた。さらに結晶構造図まで思念波で送ってきた。ロンズデーライトは知っているが、令時にはクレナザイトという物質は初めて聞く名前であった。


「なぜ、そんなに詳しいんだ。十六夜は物理化学者なのか?」


 令時は十六夜の話を聞きながら自分自身に思念波を掛けた……


 気づいてみると、視点がずいぶん高くなっていた。五階ぐらいのビルの高さから見下ろしているように見えるのであった。近くの崩落しかけているガラス張りのビルには、十五メートルぐらいあろうかと思われるドラゴンが映っていた。


「すごい。全身がルビー色のドラゴン。額には十六夜と同じ白菊の文様が刻まれている。飛べるのか? ドラゴンというのは、航空力学で飛ぶものではない。重すぎるし、翼で舵を切るぐらいか。感じたまま飛ぶのかな」と思った瞬間すでにビルの周りを周回していた。


 十六夜が小さく見える。ガラス張りのビルに飛行するルビー色のドラゴンが垣間見えた。初めて自転車に乗れた時のうれしさ、驚きと同じ感覚が蘇った。


 地面に着地して落ち着いた時には、すでに元の体に戻っていた。仮想実態魔法を取得した瞬間である。


「かっこ良すぎるじゃないか、このルビー色のドラゴン」


 鱗はクレナザイト製だった。生物物理学に精通している令時には、十六夜がよこした結晶構造を理解し、仮想実態魔法時に結晶構造の属性を埋め込んだのである。


 この世界で最強硬度の鱗を持ったルビー色のドラゴンの誕生である。


 十六夜が『くれないのドラゴン』と命名した。

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