第30話

「がっ」

ツァーリスは突然呻くと、ひざから崩れ落ちる。

瞬く間に、ツァーリスの周りは血溜まりが出来上がった。

「……かまいたち。僕の技だよ」

彼は俺に教えるように囁く。

「……震えているね」

俺の肩をポンポン、と幼児をあやすように叩く。

しばらく呼吸をすることで精一杯だった体が、やっと他の機能を思い出す。

「あっ、あ!あいつ!孔雀くん!」

俺のほとんど単語だけの説明から、俺が何を伝えたいのか理解したようだった。

「……大丈夫、他の魔法使いがその子の方に向かってる。安心していい」

そう静かに言うと、キョロキョロと周りを見回した。

「……三倉は?このエリアは、あいつがついていたと思うんだけれど」

俺はその名前に、ひゅ、と細く息を吸った。

喉の奥が長距離を走った後のように、熱くて、苦しくて、痛い。

「三倉、さんは…その……」

俺の様子を見て察したのだろう。

彼は「そう」とつぶやいたきり、それ以上何も言わなかった。

イヤホンのボタンをカチカチと操作して、事務的な連絡を行う。

「連絡。三倉死亡。繰り返します、三倉死亡」

そう言って連絡を終えると、「大丈夫だよ」と地べたに座り込む俺のために、彼はわざわざ屈んでから囁き、立ち上がった。

「……さて、そろそろ回復したかな」

見ると、ツァーリスがよろよろと立ち上がっていた。

ツァーリスの足がもつれる度に、地面に溜まった血がばしゃばしゃと乾いた地面を濡らす。

「こ、の…」

「……あれ?時間稼ぎだけで、そんなダメージ喰らっちゃったかな?」

ぶわ、と春一番のような強い風が吹く。

「お、のれ!」

ツァーリスは叫ぶや否や、勢いよく彼の影が伸びる。

魔法使いの彼は俺を抱きかかえると、宙に浮く。

「うわわっ」

「……風に乗ってるだけ。暴れると逆に危ないから、じっとしてて」

たしかに、俺よりもはるかにがっしりとした体躯で、俺くらいなら余裕で支えられるだろう。

だが、宙に浮いているなんてめちゃくちゃ怖い!

彼はそんな俺を気にもとめず、風を巻き起こして、その上を階段のように駆け上がる。

「魔法使いさんっ」

「……僕の名前は風間だよ」

「ッ、風間さん!あいつ、攻撃を受けた時、なんか爆発っぽい感じで」

彼──風間さんは顔を下に向ける。

「……厄介な能力だね。影を自在に伸ばして、斬ったり爆破したりできる」

真下では、ツァーリスが影で爆発を起こしていた。

「……これは、増援を頼んだ方がいいな。君を抱えて戦える相手じゃない」

風間さんは冷静につぶやくと、イヤホンで連絡をいれる。

「……ということで、よろしくお願いしますね。胡蝶先生」

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