第28話

俺だけ、時間が停止していた。

孔雀くんが何か叫んでいる。目の前には敵がいる。

なのに糸の切れたあやつり人形のように、俺の体は動かない。

どうしよう、俺、死ぬのかな。

あそこにいる三倉さんみたいに、『これから』を奪われるのかな。

俺が九条に進学することが決まって、のんきに喜ぶ家族の顔を思い出す。

俺が死ぬなんて、思ってないんだろうな。

俺の九条進学を、最初は信じず、驚き、祝ってくれた友だちの顔が思い浮かぶ。

自分と同じ歳のやつが死んだら、どう思うのかな。

俺の親友の秀。

お前は優しいから、きっと俺の死に責任を感じちゃうよな。自分を責めて、詰るだろうな。

そんなの、だめだ───

「しゃがめ!」

孔雀くんの声が、俺の耳に飛び込んでくる。

気がつくと彼が横にいて、俺の肩をつかんでいた。

はじかれたように、俺はしゃがむ。

太陽の光が遮られる。

「せめて楽に逝かせてあげる!」

耳にキンキンと響く声がする。

俺は恐ろしくなって目をつむった。

急に冷気が流れ込んできた。

一瞬、震度三くらいの揺れが襲う。

しかし再び目を開けると、俺たちは無傷だった。

目の前には、俺たちをかばうように氷の壁がそびえていた。

「こざかしいわね!」

ロイガーネのヒステリックな声が聞こえた。

どうやら、孔雀くんが彼女の攻撃を防いだようだ。

「おい、ポンコツ」

孔雀くんがつぶやく。

いつものように感情がなく淡々としているが、冷たさはない。

「生き残りたいなら、逃げるぞ。先生のところに行く」

彼は早口で続ける。

「俺が氷壁─さっきの技を出して攻撃を防ぐ。だから、お前は連絡を頼む」

俺は強く頷いた。

「わかった!」

俺たちは敵前逃亡をかまして、全力で走る。

「こちら、西E5エリア!メイシゲートのサイズは確認できませんでした!メイシの人数は二名!」

俺は叫びながら走る。

後ろで雷同士がぶつかったような不穏な音がするけれど、振り返ったら、たぶん腰を抜かして走れなくなる。

(孔雀くんを信じろ!)

俺は自分で自分に言い聞かせる。

「〜ッ!ツァーリス!埒が明かないわ!あなたはあの氷の子を頼むわ!」

「わか、った」

彼女の言葉に、孔雀くんは舌打ちをした。

「まずい、一体一だと勝ち目がない」

「どうする!?今連絡いれたけど、すぐ来るかわからない!」

「とりあえず離れるとまずい!」

孔雀くんは氷壁を連発する。

「俺はまだしも、お前は魔法が使えない!離れると──」

孔雀くんが、後ろに下がった。

違う、何かに引っ張られたんだ。

「孔雀くん!」

孔雀くんの右腕に、赤い糸が絡みついていた。

「さぁ、舞台の幕をあげましょう♪」

ロイガーネが不気味な笑顔で叫ぶ。

「クソッタレが!」

孔雀くんは手から氷を出して、形を整えてゆく。

ナイフのようなかたちの氷を作り出すと、それで赤い糸を斬る。

「あら、一本の糸じゃマリオネットは操れなくてよ」

「うあっ」

ぶらん、と孔雀くんは宙ずりになる。

いつの間にか、糸が足に絡みついていたのだ。

「うふふふふっ♪」

彼女は楽しそうに笑うと、糸をくい、と引っ張る。

その動きに連動して、孔雀くんは森の向こうに飛ばされた。

「孔雀くん!」

「お前のあ、いてはおれ、だ」

声の方を振り返ると、ツァーリスと呼ばれていた少年が、音もなく佇んでいた。

(逃げろ!)

思ってから体が動くまでの間に、視界に何かがよぎった。

「え?」

どろ、と熱いものが腕を伝う感覚。

そして、はじめて味わう痛み。

「ああああああああぁぁぁ」

俺は自分の二の腕あたりをおさえる。

「痛い、だろう。それが生、きている感か、くだ」

うずくまる俺を見下ろしながら、彼が独り言のようにつぶやいた。

「その痛みもく、るしみも……さよな、らだな」

まずい、このままだと殺される。

生き残る方法はないのか!?何か、何か!

俺に魔法が使えたなら、助かるのか!?

魔法が──


自分でも、どうやったのかはわからない。

ただ、孔雀くんの猿真似だった。


「……氷壁」

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