魔法使いになるということは、こういうことは彼に日常として起こるということだ

生活

第27話

「じゃ、そういうことで今日の一限は、ここで警備実習をしまぁす!」

胡蝶先生は、ハキハキと元気いっぱいにしゃべる。

「まず、君たちに支給したのは魔法使いが任務するときに着るユニフォームです」

俺は気持ち悪いくらい着心地のよいユニフォームを見つめた。

着てないみたいに軽いのだ。

「これは、熱さや寒さに耐えたり、そのへんの包丁じゃ切れないくらい頑丈です。それぞれの『罪』に合わせて、多少は違えど、ほぼみんな同じ色、材質だよ」

俺は周りを見渡す。

確かに、タートルネックになっているやつや、グローブをはめているやつ、半ズボンにタイツのやつなど様々だ。

どうやら基本的には、半袖のフード付きの厚手ジャケットの中に、ぴったりとした長袖のシャツ。

長ズボンを登山用みたいなガッチリとしたブーツにインする。

片耳にだけ、連絡するためのワイヤレスイヤホンをつける。

さらに、なぜか首からダイビングするときに使うような形のゴーグルをぶらさげている。

ちなみに俺に支給されたユニフォームは、基本の形に、なぜか片手だけのグローブとタートルネックだ。

「警備実習とは、魔法使いの三大任務、警備、戦闘、避難誘導の一つです。その中でも、一番こなすことが多いのがこの警備だねぇ」

幼稚園児に教えるように、胡蝶先生はなるべく噛み砕いて解説してくれた。

他の人はどうか知らないが、俺のように右も左も分からないやつにはありがたい。

「ただ、高校生の君たちにいきなり警備実習をさせるのは酷だよねぇ。だから、新卒魔法使いの皆さんにサポートしてもらいます。拍手ぅ〜!」

胡蝶先生はパチパチパチ、と大音量で拍手をすると、にこにこと笑いながら一人の魔法使いが前にでた。

「こんにちは。今回みなさんの警備実習をサポートする、三倉です」

正義感あふれる、爽やかな男性だ。

「それじゃあ、各々同室組で実習してもらいまぁす」

にっこりと楽しそうに胡蝶先生は手を叩いた。


「どうも、さっきも挨拶したけど……三倉です」

「あっ、新田です」

「氷室です」

俺は横にいる氷点下の権化のような人物の圧を感じつつ、自己紹介をする。

「警備実習は初めてだろうから、やることを教えるね。警備はメイシゲートの発生しやすいエリアを中心に、魔法使いが在駐するのが仕事内容。基本的には異変─ようするに、メイシゲートが発生したら本部に連絡をいれること」

三倉さんはこの氷点下野郎を前にしても、笑顔を崩さずに優しく教えてくれる。

「それじゃ、新田くんはここ、氷室くんは今から案内するところで警備してね」

俺はうなずき、去ってゆく孔雀くんと三倉さんを見送った。

しばらくすると、三倉さんが戻ってきた。

「どう?何か変化あった?」

「何にもないです」

三倉さんは「だろうねぇ」とカラカラと笑う。

「君は……編入生なんだってね」

三倉さんがぽつりとこぼした。

「はい」

「高校から入るのは珍しいね。たいていみんな中学までに入るのに」

「はは、まぁ色々あって……」

三倉さんはほほ笑む。

「僕は、『伝授』してもらったんだ。魔法使いに命を助けられて、憧れてなりたいと思った」

「夢を叶えられて、幸せですね」

少し照れくさそうに彼は頭をかいた。

「いや、まだまだこれからだよ。僕の他にも、『伝授』で魔法使いになったやつは多い。魔法使いの六十パーセントがそうだ。でも、やっぱり『伝授』で魔法使いになった人は、元々の魔法をもっていた人に勝てない」

三倉さんは凛と前を向いた。

「だから、まだまだ強くなるんだ。もっと努力して、人々を守れるような魔法使いに」

「すごいです。きっと三倉さんならなれますよ」

俺は真っ直ぐな三倉さんを、素直に褒めた。

「そうかな?頑張らな──」


目の前に、閃光。


「うあっ」

咄嗟に目をつむる。

目をあけたとき、目の前にあったのは三倉さんだったもの。

「三倉さん!!??」

俺は必死に揺さぶるが、もはや人間ではなかった。

物言わぬ肉塊。

「おい!今のは何の音だ!?」

孔雀くんが走ってきた。

そして、彼の足音とは別の足音。

「あらァ?ツァーリス。この子、この前の子豚ちゃんじゃなくて?」

聞き覚えのある声だ。

忘れもしない、白髪に黒髪のツインテール。

「ほんと、うだ、な」

目の前に、メイシが二人。

なんでだ?

メイシゲートの発生、同時にメイシの侵入。

俺たちが任せられるところは、メイシゲートの発生が少ないところじゃないのか?

本部に連絡。

まずい、俺、死ぬ?

イヤホンの電源を入れて、連絡。

嫌だ、死にたくない。

連絡事項はエリア名と、メイシゲートのサイズ、メイシの人数。

嫌だ嫌だ!

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