第24話

「この封筒は、魔法使いしかあけられないような魔法がかけてあるんだ」

似鳥学科長は、一人芝居の役者のようだった。

「指先のわずかな汗とか皮脂に含まれる、魔法使いにしかない遺伝子とか常駐菌を読み取って、この封筒の糊は無効化されるようにできてる」

俺はやけにカラカラに渇いたのどを無理やり動かして、どうにか声を出す。

「あ、の……俺は」

似鳥学科長は、それだけで何が言いたいのかわかったようだ。

ふっ、と顔の表情を柔らかくする。

「この魔法の手品の種明かしをしたのは、別に君をこの九条から追い出そうってわけじゃない」

机に封筒を置くと、俺を見つめた。

「君は、誰からその魔法を手に入れた?」

獲物を逃がすまいとする、狩猟者のような眼に、俺はひざが震えた。

「誰から……ってどういうことですか?」

「君のその魔法は突然変異なんかじゃないよ。突然変異型は、先祖に隠れ魔法使いがいたりするんだ。その埋もれてしまった遺伝子が何世代か経て、思い出したように現れる。だから突然魔法使いになったように錯覚するだけだ」

似鳥学科長は、トン、と俺の荒れ狂う心臓を指さした。

「でも戸籍を調べた限り、君には魔法使いらしき先祖はいない。そうなると、可能性としては誰かから魔法を伝授したことになる。おまけに、君は二型じゃない、一型だ」

俺よりも小さく、小学生のような見た目なのに、こんなにも緊張する。

この人物が、まぎれもなく五十年以上生きてきた人間であることを感じた。

「俺は、突然変異で魔法使いになったわけじゃないです」

俺は誰にも言うな、という秀との約束を思い出す。

「……これ以上は、言えないです」

うつむいて黙りをきめこむ俺に、似鳥学科長は、頭をぽりぽりとかいた。

「約束させられたか、そいつに」

俺は驚いて顔を上げた。

似鳥学科長は悪戯っぽく笑った。

「ある程度は調べがついてるさ。前線から退いてからは、ずっと魔法の研究をしているんだ。魔法が何かをわかれば、メイシを、ゆくゆくは冥界とこの世界を切り離すことも可能だろう」

そして、彼はゆっくりと目を閉じた。

「今日はもう遅い。部屋に戻って大丈夫だ。呼び出して悪かったね」

俺は頭を下げて、部屋をあとにする。

似鳥学科長は、俺が魔法使いではないこと、秀とやった儀式で俺が魔法使いになったことを勘づいているのか?

誰もいない廊下は、足音だけがやけにうるさく響いた。

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