第22話

「あ、新田くん、氷室くん」

一通りの事務手続きを終えて、教室を後にしようとすると、胡蝶先生に声をかけられた。

「これから学科長のところに行ってもらうんだけど、これ持っていってね」

彼はガサガサと、大きな紙袋から書類を出した。

「必要な書類だから。中は学科長がいいって言ったら、この封筒をあけて、書類を出してね」

にっこり笑うと、猫みたいな八重歯がのぞいた。


「孔雀……くん」

学科長室に、はからずしも一緒に行くことになってしまった彼に話しかける。

彼は俺より背が低いから、少し下を向いて見ることになる。

彼は俺の顔を見たくないのか、顔を動かすのがおっくうなのか、まっすぐ前だけみたまま低くつぶやく。

「何」

「孔雀くんも〜……その」

何か会話を探さねば。

俺はその一心だった。この重苦しい会話のない状態が、俺には耐えられなかった。

「編入生なんだね。ほら、みんな中等部から一緒だからさ」

光に当たって透明みたいにみえる彼の長いまつ毛が、一瞬揺れた。

ゆっくりと、彼は顔をこちらに初めて向けた。

能面みたいに、感情がなかった。いや、能面のほうがよっぽど喜怒哀楽がある。

「……で?」

俺はぐっ、と息をつまらせた。

「いや、俺だけじゃないから、心強いよ」

俺はギチギチと無理やり口角をあげた。

孔雀くんに、表情が生まれた。ちょっとしたいら立ちだった。

死ぬほど冷たい、それこそ絶対零度の氷のような鋭い目線。

「……あっそぉ」

俺はへら、と曖昧に笑って誤魔化した。

こいつのこと、嫌いじゃないけど好きじゃねぇな。


学科長のいる部屋は、なんてことない部屋だった。

ドアも別に普通の学校の校長室みたいだし、部屋の内装もそうだ。

ただ一つ、とんでもなく異質なものがある。

それは、学科長自身だ。

「氷室孔雀です」

なんてことないように、彼は名前をなのった。

俺も、慌てて続く。

「新田達磨です」

学科長は微笑んで、そのの姿で、俺たちのまえに立っていた。

「ようこそ、九条高校魔法科へ」

そこにいたのは、小学校高学年くらいの少年だった。

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