第20話

「んん……」

俺の顔に、明るい日差しがさした。

朝なのか、とぼんやり動き出した頭で考える。

「……ん」

日差しを感じなくなった。

ぼやけた輪郭が、徐々に鮮明になってゆく。

俺は「あ」と「え」の間の、どこかの言語のようなわけのわからない発音をした。

「いつまで寝ているんだ」

氷河期を擬人化したような少年──氷室孔雀だ。

「……おはよう。孔雀、くん。」

回らない頭で、彼との関係をむやみに壊さないために、君付けを俺は選んだ。

「昨日は遅くに帰ってきたな。早々に規則を破って、女と逢い引きか?」

「なっ!」

俺は顔が熱くなるのがわかった。

「逢いびっ!これにはわけがあって!」

「あぁ、いい。別にそういう話がしたいわけじゃない」

彼は面倒くさそうに手をヒラヒラ振ると、俺を冷たい目で見た。

「とりあえず、同室としての最低限の振る舞いをたのむよ」

扉の閉まる音と俺だけが、部屋に取り残された。

「なんだあの言い方。別に俺は秀と会って……」

俺は言い訳する相手もいないのに、一人つぶやくだけだった。


食堂に行くと、ちょうど高盛と鉄真も来たようだった。

「あ、おはよう、達磨」

「おはよう」

「二人とも、おはよ」

笑顔で素直にあいさつする二人に浄化されつつ、今朝のあいつに俺は少しイラついた。

だよな、普通こうやってあいさつするよな。

俺達は学食のメニューをどれにするか、といった他愛もない話をしながら、席につく。

「そういや、学生以外の人も見るけど……あれみんな先生?」

「ううん」

高盛はリスみたいに口の中いっぱいに食べ物をつめたまま、首を横に振った。

「もちろん先生もいるけど、現役の魔法使いのが多いな」

かわりに鉄真が教えてくれた。

「ほら、俺らの学生寮の近くに何棟か似たような建物があっただろ?あれは職員寮ともう一つ、ここの駐屯地にいる魔法使いの寮なんだ」

箸で器用に焼き魚の身をほぐしながら、鉄真は続ける。

「食堂、それから大浴場は学生と教員も魔法使いも共同なんだ」

「へ〜。じゃあ、ここの駐屯地にいる人達はここに住んでるのか?」

「いんや、そういうわへじゃないお」

口の中をもごもごさせながら、高盛がはいってくる。

「駐屯地の近くの、半径何キロ圏内だったかな〜。忘れたけど、ある程度指定された場所で許可がおりれば、別にここに住まなくてもいいの。夜勤とかのときは、一時的に泊まることもあるけどね」

「色々あるんだな」

鉄真は不思議そうな顔をした。

「ほんとに、何も知らずに入学したんだな。不安じゃなかったのか?」

嫌味ではなく、本気で俺を心配しているのだろう。

「いいやぁ…、うん、不安といえば不安だけどさ。まぁ、友達も応援してくれてるし」

なんとなくしんみりとした空気になる。

「あっ、それにさ!俺、実は高校全部落ちたんだよ!全落ち!だから、ここしか行くとこもなかったし!」

いたたまれなくて、俺は自虐ネタに走る。

「ええっ、全落ちってマジであるの?」

高盛が地味に傷つくことを言う。

「あるんだな、これが」

俺は味噌汁をすすりながら、全落ちしたころの俺に思いを馳せた。

おい、過去の俺。勉強しないとこんな目にあうぞ。

でも、しなくても、そこそこ楽しめるかもよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る