第17話

「新田達磨。」

「ハイ。」

俺はただただ、這いつくばっていることしかできなかった。

火守狼牙。

目の前の男は忌々しそうに、正座している俺と虎太郎を睨んでいた。

「非武装の人間は、戦闘区域に入らない。基本中の基本だ。」

彼の声は狼の唸る声のように、腹の底に響く。

「さーせん。」

虎太郎は面倒くさいといわんばかりに、顔をそむけた。

「しかも、メイシと遭遇したらしいな。運良く戦闘にならなかったからいいもんだが……。」

火守先生は鋭い目つきをいっそう光らせた。

「戦闘状態にはいったら、間違いなく二人とも死んでいた。」


「ち、ちびるかと思ったぁ……。」

火守先生から解放されて、俺は虎太郎に若干支えられながら寮へ戻る道を歩いた。

「だから逃げたかったんだよ。ちっ、高盛のやつ、絶対火守だから俺に行かせたんだ。」

虎太郎は吐き捨てるように言うと、俺の目の前に手を出した。

「……何?」

「ほれ。これだよこれ」

虎太郎は人差し指と親指で、丸をつくった。

このポーズは、あれだ。

「お、か、ね。まぁ、現金でなくてもいいけどさ。」

「嘘だっ!なんで俺が!」

「そりゃ、わざわざ戦闘区域まで連れてって、一緒に火守に怒鳴られたんだ。」

虎太郎は悪徳商人みたいに顔を歪めた。

「なにか、報酬というか、そういったものがあってもよいじゃろ?」

そして、彼は指をさした。

「あれとか♡」

その指の先には、寮の玄関のそばの自動販売機があった。

ガコン、とジュースの落ちてきた音がする。

「わーい。」

虎太郎はメロンソーダを嬉しそうに取り出す。

ペットボトルをむちゃくちゃに振って、俺の方に吹き出させた。

「あ゛あ゛!」

俺は虎太郎によって、Tシャツをメロンソーダに染め上げられた。

「何すんだよ!」

「炭酸のお約束♪」

虎太郎は愉快そうに笑った。

ちくしょう、そんな約束あってたまるか。

俺は負けじとコーラを買う。

そして自動販売機がコーラを吐き出すと同時に、俺はすぐに取り出して振る。

「おらッ!」

俺は虎太郎に向けてコーラの爆弾を噴射させた。

「だァァ!!!」

虎太郎の腹にそれは命中する。

「このやろぉ!」

虎太郎は楽しくなったのか、残りがわずかなメロンソーダのペットボトルを、キャップのあいた状態で俺に投げつけた。

「うわっ!」

微量のメロンソーダが、散弾銃みたいに俺の足元に散らばり、ペットボトル本体が、クリティカルヒットする。

「やりやがったな!」

俺たちは、メイシに遭遇しながら、無傷であったことにより、ナチュラル・ハイになっていた。

俺はペットボトルを投げ返した。

「そうくるならっ!」

虎太郎は虎太郎は不思議な手の動きをした。

「へっ?」

投げ返したはずのペットボトルは、俺の方へ向かってきた。


これが、俺がはじめて魔法をくらった瞬間だった。

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