第10話

「こっち……この二段ベッドの下……君ね」

「はぁ」

氷室孔雀は、一流の彫刻家が命懸けで作った超大作のような美しい指で、二段ベッドをさした。

「……えと……氷室、くん?」

「孔雀、でいいよ」

おお、中々友好的だ。

俺は彼が無愛想に見えて、友好関係を築こうとしているのかと思った。

何か質問して、互いをよく知らなくては。

荷解きしながら、俺はふと思ったことをきく。

「氷室くん、じゃなくて、孔雀。もしかして、魔法使いの氷室獅堂の子ども──」


ガンッ。


ドアをぶっ叩く音だとわかったのは、しばらく時間が経ってからだった。

「………………だったら?」

はじめて、『殺気』を感じた。

ビリ、と体に電気が流れたようだった。

手足まで流れる電気に痺れて、体がすこしグラつく。

脳みそだけが、頭蓋骨の中でぐらりと揺れる感覚。

「……なんでも、ない」

喉をしぼって、しぼって、しぼりだした声で精一杯こたえた。

どうやら、彼は俺と友だちになりたいわけではなさそうだ。

たぶん、氷室、と呼ばれたくないだけだ。


氷室獅堂は、現役魔法使い最強の呼び声も高い人物だ。

氷室という名字はあまり耳にしないし、魔法関連となれば、そうでないかと思ったのだが。

お近づきになる話題のきっかけとしては、大失敗っぽい感じだ。


「knockknock〜」

小鳥のような声と共に、ドアがノックされた。

「はい」

氷室くんを横目に、遠慮がちにドアをひらいた。

「やぁやぁ、外部進学組〜。僕は水瀬みなせ高盛たかもりっ!高盛でも、たかっちでも、たかたかでもなんでも、好きなように呼んでくれ〜」

熱帯魚のような明るい水色の髪色が目を引く少年。

かわいらしさが全面に押し出された、ちょっとよくわからないキャラクターもののパーカーを着ているから幼く見えるはずだが、ピアスやネックレスでその幼さを緩和して年相応に見せている。

二重のぱっちりした大きな目は、その辺のギャルが見たらあまりの嫉妬心に、奇声を上げて倒れてしまいそうなほどだ。

「新田、達磨です」

「氷室孔雀……」

俺らは各々挨拶する。

「ほぉら!てっちゃんも、あいさつして」

横から、大柄な男がにゅ、とやって来る。

「あぁ、俺は鉄真てつま。よろしくな」

真っ黒の炭のような髪が、毛先の方だけ炎のような紅蓮に染まっている。

意志の強そうなつり目だが、真面目で実直そうな雰囲気がとっつきにくさを緩和している。

「孔雀とは、昔……獅堂先生の魔法教室で会って以来だな。久しぶり」

爽やかに氷室くんに笑いかける。

「……久しぶり。一位、おめでとう」

孔雀は苦々しい表情だった。

「サンキュー」

少し気まずそうに、彼は笑った。

彼の短い髪の先が、まるで炎のように少しだけ揺れる。

「それでねっ」

彼らのなんとも言えない空気に、割って入った。

「毎年恒例の進級アンド新規編入祝いをするんだけど、来ないかい?ほら、二人とも入寮したのは今日だから、お知らせっ」

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