第5話

「……あの」

「なに?」

彼女は振り返らずに言った。

俺は彼女に、ひな鳥みたいにくっついて試験会場までついて行っているところだ。

築二百年ほど経ってそうな外観とは違い、内装は私立だけあってキレイだった。

中に入ればなんてことはない、ただの学校。

正直、あんな複雑で古風な見た目でありながら、こんな普通の内装なんて、拍子抜けした。

「あいつ、友達なんです。不審者とかじゃないんです。俺の見送りっていうか、付き添いっていうか……」

「あぁ、そう。でも、彼は普通科の人で、受験生じゃないでしょ?ここはあらかじめ許可された人間じゃなきゃ、入れないの」

彼女は歩くペースを変えず、振り返らず、続ける。

「だから、防犯システムが作動したわけ」

「……はぁ」

廊下に、彼女の足音が響いた。


俺しか受験生がいなかった。

案内してくれた先生と、部屋で待っていた先生の二人が面接官だった。

「こんにちは!新田くん!」

見ただけで体感温度がプラス五度は上がりそうな雰囲気の人だった。

目がちょっと大きくて童顔っぽい。

火岡ひおか竜造りゅうぞうだ!よろしく!」

握手を求められたので、俺はおずおずと彼の手を握った。

やけにごつくて、熱かった。

「それじゃあ、早速なんだけど」

名前を名乗っていない女の先生は振り返って、俺を見た。

「魔法、使ってくれる?」

ヒュ、と俺は変な息の吸い方をした。

「……どんな感じで」

「なんでもいい。書類審査では、『嫉妬』って書いてあるけど……何型?」

「い、一型です、ね」

魔法には、型と呼ばれるものがある。

最初と魔法使いが使っていたといわれるものが『零型』。

これはどういうわけか、人にそっくりそのまま、同じ威力で魔法を分けることができる。

そのため、威力としては一型だが、その特異性から零型と呼ばれている。

そして、最初の魔法使いの弟子たちは七人。各々が、七つの大罪から名前をとった、七種類のうち一つを、使うことができた。

そして、最初の魔法使いの弟子たちの使う魔法、それを一型と呼ぶ。

さらに、魔法は遺伝する。

最初の魔法使いの弟子たちの子供は、親である弟子たちと同じ種類、多少の差はあれど、ほぼ同じレベルの魔法を使うことができた。

彼らが使うのは一型。

魔法は取り込んだ時点で、遺伝子に組み込まれ、高い確率で子孫へと伝えられてゆく、優性遺伝子なのだ。

つまり、本来ならば最初の魔法使いの弟子たちの子孫以外、魔法は使えない。

では、なぜここまで魔法を使える人が増えたのか。

その疑問を解決するのが、二型以降の型。

一型は魔法を分け与えるとき、自分の三分の二から半分程度のレベルの魔法しか分け与えることができない。

一型から分け与えられたら二型。

二型から分け与えられたら三型。

三型から分け与えられたら四型。

と、数字が増える度に力は弱まる。

魔法使いという職に就くほとんどの人は、二型から三型が多い。

一型は限られた人なのだ。

俺は生まれて初めて、限られた人となった。

……と思う。



「秀!魔法が使えねぇよ!」

「えっ」

儀式の後、俺らはなんの魔法を使えるのか確認していた。

俺は氷を出そうと思ってもでない。炎も同じくでない。植物を操れない。

秀に幻覚はみえない。パワーを増強できない。

自分の体を浮かせることは不可能。

「……もしかしてさ、失敗したのか?でも、俺の体は、変な儀式の時……いつもと違ったぞ」

俺は秀の顔に穴があきそうなほど見つめる。

「んん〜」

秀はその無駄に整ったあごに手をあてて、しばらく地面とにらめっこをしていた。

「……『嫉妬』だな」

「へ?」

秀は顔を上げると、「うん、そうだ!」とやけに明るい声で言った。

「『嫉妬』ってたしか、コピー能力的なやつだよな」

「うん。魔法使いの中では、使い手が最も少ない」

俺は自分の手をじっと見た。

ここから、火とか氷とか、そういったド派手なものが出ると思っていた。

「『嫉妬』ねぇ〜」

「不満かよ」

秀は俺の額にデコピンをする。

「不満じゃないけどさ」

「コピー能力ってチートだぞ?そりゃ確かに、コピーするにはけっこう大変だし、一芸を極めるだけのほかよりやることはいっぱいだけどさ」

「ほら、なんかイマイチじゃん」

俺は秀にデコピンしかえす。

「コピー能力っていってもさ、コピーするには魔法がいる。オリジナルがないのに、コピーなんて出来ねぇよ」

「たしかに、実際使えるかわかんないな。俺は魔法使いじゃないし」

俺らは互いに頷きあった。

「でたとこ勝負、かな」

秀はそう言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る