第2話

この世界には、魔法がある。


それは、足が速いとか泳ぎがうまいとか、歌や絵が得意とか、そういった類いのものとして存在する。

足の速い人はそこそこいるけど、それで日本一、世界一を手に入れられる人が限られているように、魔法も仕事としてやれる人は限られている。

ある統計では、世界の人口の約四割が魔法を使えるが、仕事として魔法が使える人は、使える人の中の約四割にまで落ち込む。

つまり魔法を使えても、半分の人はそれを職業とはできないのだ。


「しかも、魔法科といえば、いわゆる『魔法使い』養成所だぞ!?魔法ガチ勢の行くところだ!」

俺は机を叩く。

「その通りさ」

秀は悪徳セールスマンみたいな胡散臭い笑顔を浮かべるだけだった。

「お前、魔法使いってどんな仕事か知ってるか?」

「魔法を使って、この世界に害をもたらすメイシ、及びメイシゲートを殲滅する仕事」

「大正解」

メイシ───それは俺たち地球人が、冥界と呼ぶ別空間からやって来る奴らのことを指す。

俺たち地球人、人間に見た目がよく似ていて、少し異なる存在。

そのメイシ達は、この地球を征服しようとしているのか、とにかく理由は不明だが、俺たち人間を襲う。それを阻止するために戦う戦士が魔法使いだ。

メイシは征服しようとしているのか、それ以外の目的なのか、彼らのいる冥界とはなんなのかとか、そういったことは未だ不明。

現在絶賛研究中なのだ。

俺は秀のムカつくくらい整った顔の前に、指を突きつける。

「そもそもな、魔法科の大前提として、魔法が使える必要がある」

「使えないの?」

「使えない。お前だって知ってるだろ」

俺は続ける。

「それからもう一つ、すごい問題があるぞ。これが、かなり重大な問題だ」

「なに?」

「死ぬ」

秀は、ふぐのように口をふくらませたかと思うと、すごい勢いで吹き出した。

「あっははははははっ!はーっ、おっかしい!」

「まじだって!お前知らないのか!?魔法使いの殉職率!」

「毎回トップ争いまではいかなくとも、殉職率の高い職業ランキングトップ10にはランクインしてるよね」

「だから、俺なんかがいったら死ぬぞ?心の友が死んでもいいのか?」

秀はしばらく俺を見つめると、「お前は死なないよ」と笑った。

俺は本能的に背中を反らして、秀から距離をとった。

俺が死なないと断言するこいつのある種の狂気と、その美しい顔にたじろいだからだ。

「だいたいさぁ、俺は魔法使えないぞ。両親、祖父母、もっともっと先祖に至るまで、魔法使いはいない。俺の体内に、魔法使いの遺伝子はミジンコほども存在しないんだ」

秀は目線を少し斜め上にそらすと、にんまり笑った。

「突然変異的に魔法を授かる例もある。そもそも、この世に現れた最初の魔法使いの弟子たちはそうだった。いや、突然出てきた最初の魔法使いこそ、突然変異的に魔法を授かったんじゃないかって話だろ?」

「あくまでそれは伝説じゃん。魔法自体が謎が多い存在なんだよ。見てきたような言い方だな」

秀は不気味な笑みを浮かべた。

顔がいいだけに、凶悪な顔をするとなんとなく怖い。

「でも、現代の魔法使いでもそういう人いるよ。突然魔法を授かった人達。魔法使いから魔法をもらった人とは別に、魔法を使えるようになった人」

俺は黙ってしまった。

「別に、魔法使いにならなくてもいいじゃん。とりあえず『つなぎ』だよ。テキトーに魔法やってさ。高校浪人するよりはマシでしょ?んで、大学頑張りゃいいじゃん!最終学歴だって、大事なのは」

俺は教室の窓から、ぼんやり校庭を眺めた。

だめだ、こいつの中ではもう筋書きができてしまっている。

こうなったら、俺はこいつの手のひらの上で情けなく踊らされるしかないのだ。

長い年月の経験で知ってる。

「さて、どうする?」

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