XXXX/05/24Sat.

「・・・くん、陸くん、起きて」


誰かの呼ぶ声が聞こえる。陸が目を開けると、目の前には先ほどの雨空から一転、雲一つないディープブルーの空が広がっている。風に乗って運ばれてくる土と緑の匂い。陸は公園の芝生の上に仰向けに横たわっていた。降り注ぐ陽射しが眩しくて手で遮ろうとしたが、いくら動かそうとしても手はぴくりとも動かない。脳からの信号がどこか途中でせき止められているようだった。


すると、「やっと目が覚めた?」


碧色の瞳の女性が陽射しを遮るように陸の方を覗き込んでいる。咲良だった。陸はとっさに「ごめん」と咲良に謝ろうとしたが、声が出せないどころか唇すら動かすことができない。それはまるで映画のワンシーンを主人公主観で観ているようだった。今度は陸の意に反して、その体は上半身を起すと、


「ほら、咲良も横になったら?日差しが気持ちいいよ」


横の芝生を「ポンポン」と叩いた。


咲良は少し照れた様子で、「えー焼けちゃうよ」


と言いつつも言われた通り、陸の横に仰向けに寝転んだ。陽射しが余程眩しかったのだろう、顔の前に左手をかざす咲良。その細い指を陽の光が透けてボーッと赤く光っている。陸の目にはその様子がとても神秘的に映っていた。


「俺さ、記憶もないし、友達もいないから、咲良がいてくれてとても嬉しいんだよね。だからさ、これ受け取ってくれない?」


と言うとズボンのポケットから指輪を取り出し、咲良がかざしている左手の薬指にはめた。


「えっ、いいの?嬉しい・・・」


咲良は突然のプレゼントに驚きながらも、嬉しそうな表情で左手を動かし指輪を色々な角度から眺めている。指輪自体はシンプルなものであったが、中央にはめられた石がまるで空を映したかような鮮やかな青色に光っていた。それを見ていた陸もその輝きに見入っていた。


「でも、これどうしたの?まさか、盗んだんじゃ・・・」


咲良は照れ隠しているのか、冗談交じりに言った。


「ははは、さすがにそれはないよ。昔から持っていたペンダントがあってさ、それに付いてた石が綺麗だったから指輪に作り変えたんだ」


「えっ、それって大事なものじゃない?誰かの形見とか?私がもらっていいの?」


咲良は心配そうに言った。


「いいって、いいって。記憶ないのに俺が持ってたって使い道ないし、咲良が喜んでくれるならそれでいいよ。ほら、ここ見て」


指輪のリングの部分を指差した。


「あっ、二人だけの秘密ね。ありがとう。大切にするね。でも、これ私の薬指にはだいぶ大きいね。そうだ!!これでいいや、ふふふ」


とぶかぶかの指輪を一旦外して、中指にはめ直した。


「せっかくだから写真撮ってよ」


陸の体は咲良から携帯端末を受け取ると、立ち上がり、


「じゃー笑ってーはい、ポーズ」


画面越しに見える咲良のはにかんだ笑顔に見惚れる陸。写真を撮り終えると、陸の体は再び咲良の隣に横たわりゆっくりと目を閉じた・・・

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