明葉のくすぐり

 プールの授業が終わり、結衣はスク水から私服へ着替えていた。

 着替えるスピードというのは、人によって違う。

 その中でも、結衣はどちらかと言うと遅い方である。

 一番最後に更衣室に残されることも珍しくない。

 だが、そんな結衣よりも遅い人が……


「堪忍なぁ、結衣さん……」


 この、京都弁キャラである明葉。

 明葉は口調のこともあってか、おっとりマイペースな印象を受ける。

 そのイメージは、あながち間違いではないらしい。


「ううん、大丈夫だよ。次は20分放課だからゆっくりでいいよ」


 結衣と明葉が通っている小学校には、二時間目と三時間目の間に20分放課というものがある。

 そのため、次の授業までに結構な休み時間があるのだ。


「……はぁ。こんな自分を変えたいと思っても……難しいなぁ……」


 やっと下着を着た明葉が、嫌そうにこぼす。

 誰だって、人と少し違うことにはモヤモヤするものだ。


「うーん……確かに自分を変えるのって難しいよね……でもさ、変えなくていいと思うんだ。だって、自分は自分だもん!」

「結衣さん……」

「……って、なんか照れくさいこと言っちゃった……着替え終わったならはやく教室行こう?」


 照れ隠しをしているのか、早口で明葉を急かす。

 その時、何も無いところで結衣が躓いた。


「……へ?」

「結衣さん!」


 それにいち早く気づいた明葉が結衣の腕を引っ張るも――

 間に合わなかったようで、一緒に床へ一直線に倒れてしまった。


「いたた……」

「きゅう……」


 それほど勢いがあったわけではないが、ダイレクトに倒れてしまったため、そこかしこから痛みが奔る。


「……はっ! 結衣さん! 大丈夫どすか?」

「う、うん……なんとか……それよりも――今の状況の方が……」

「……ふぇ?」


 それは、明葉が結衣を押し倒しているような構図になっていること。

 それに加え、明葉と結衣の顔が、息がかかるほど近くにある状況のことである。

 結衣はそれに耐えられず、頬を赤らめた。


「あ、あの、ちょっと……退いてもらえない……かな……」


 手で口を覆い、恥ずかしそうに目を逸らす結衣。

 その様子に、明葉は理性が飛んだ。


「……結衣さん……」

「え、な、なに??」


 おっとりとした顔に似合わず、獰猛な笑みを浮かべる明葉。

 その顔に、結衣は言い知れぬ恐怖を感じた。

 だが、上に明葉が乗っているため、逃げることが出来ない。


「うふふ……結衣さんは可愛らしいなぁ……」

「……あ、明葉ちゃん? 怖いよ……?」

「えー、そうか? じゃあ――怖さが和らぐ魔法かけたるわ」

「……へ? ――うきゃっ!」


 明葉は怖い顔のまま、結衣の脇に手を入れる。

 すると、ゾクゾクとした感覚が結衣の身体を駆け巡った。


「ひゃははは! くすぐったいよぉ!」

「じゃあ、今度はこっちな♡」

「――へ? ひゃんっ!」


 明葉が結衣の足をくすぐる。

 すると、先程よりも強い刺激が結衣を襲った。

 そのせいか、変な声を出してしまった。


「うぅ……は、恥ずかしいよぉ……」

「〜〜!! 結衣さん可愛すぎるわぁ!」

「ちょっ! ――んんっ! はぁ……ん……」


 結衣が艶っぽい声を出したせいで、くすぐりだけでは物足りなくなった明葉。

 完全に理性を失った明葉は、結衣に飛びつき、深いキスをする。

 初めからアクセル全開の明葉の攻めに、初心者の結衣は気を失ってしまった。

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