第204話 とある少女の過去

 初めに見たのは、両親であろう魔術師の姿だった。

 少女が目を覚ますと、とても嬉しそうに顔をほころばせていた。


 少女は――神のような存在。

 人々の願いを叶えるために生まれてきた存在。

 人の型をしてはいたが、少女は人間ではなかった。


 お母さんのお腹の中にいたわけでもなく。

 赤ちゃんと呼ばれる状態から成長したわけでもない。

 少女は初めから、小学生ぐらいの姿だった。


「では早速、お前には学校に行ってもらう」

「……学校、ですか?」

「あぁ、そうだ。“学校”という単語は解るね?」

「……はい……」


 少女が小さく肯定すると、魔術師は得意げに笑った。

 どうやら少女に知識というものを埋め込んだのは、彼らしい。


 ……だからだろうか。

 少女が話す度、彼は自分のことしか見えていないようだった。

 顔は笑っているのに、目が少女を映してしなかったから。


「魔法学校に行って、魔法の使い方について学んできなさい」

「……わかりました」


 だが、そんなことはどうでもよかった。

 どうせ他人なのだから。


 ☆ ☆ ☆


「えー、今日から転校生がやってきます。みなさん仲良くしましょうね」


 先生がそう言うと、教室中にどよめきが奔った。

 転校生に対する期待と不安とが入り乱れているのだろう。


「では、どうぞ入ってきてください」


 先生に言われ、少女が毅然とした態度で入ってくる。

 その姿を見て、生徒たちは――いや、先生ですら、息を呑んだ。

 少女の外見に息を呑んだわけではない。

 少女の放つ魔力が圧倒的すぎて、格の違いを見せつけられたような気がしたから。


 それは言うなれば、王の放つオーラ。

 王様には人々がひれ伏し、頭を下げるものである。

 そんな王の威厳のようなものが、少女にはあったのだ。


「よろしくお願いします」


 王のようなオーラを纏う少女の一挙手一投足に、生徒たちは目を奪われた。

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