第189話 口喧嘩が始まる

 その衝突は天を揺らし、地を裂き、海を割った。

 天使は四つ羽を駆使し、魔王は蝙蝠のようなマントをめいいっぱい広げる。

 ガーネットは自分の魔力で翼を編み、漆黒の堕天使のような姿となる。


「……あなた様方はなぜ戦おうとするんですかぁ? 素直に運命に身を委ねればいいのに」


 ガーネットはゴミを見るような目で結衣たちを見つめる。

 それは、結衣がガーネットにやったこともある目。

 だが、決定的に違うのが――ガーネットの方が明らかに嫌悪感が強いということ。


 だけど、それでも、ガーネットはこの期に及んでまだ何かを隠している。

 結衣はそのことに気づいていた。


「私たちが戦うのは、ガーネットとまた仲良くしたいって思うからだよ! そうじゃなきゃ、こんなところまで来たりしない!」


 だが、あえてそれには触れず、訊かれたことに対してだけに答える。

 ガーネットだって、必死に何かと戦っているようだから。

 結衣がそれを解決しても意味が無い。

 自分でそれを越えなければ意味が無いのだ。


「そりゃそうだぜ。あとお前、運命とか何とか言ってるけど――お前はそれに身を委ねれば満足なのか?」

「ちょっ! 魔央!?」


 魔央が何を言い出すかと思えば、ガーネットの神経を逆撫でするようなことを笑顔で言った。

 せっかく結衣がガーネットとの絆を取り戻そうとしていたのに……


「いいじゃんかよ。俺が訊きたかっただけだし」

「……魔央? もしかして――」


 もしかしたら、あえて逆鱗に触れた?

 魔央は、結衣の知らない何かを知っているのかもしれない。


「……わかりました。ではお答えしましょう。――この世界に必要のないもの」

「…………おい、今なんつった?」


 無感情に言うガーネットは、魔央の顔を引き攣らせた。

 まるで、さっきのお返しだと言わんばかりに。


「聞こえませんでしたかぁ? 耳が悪いなんて欠陥品ですねぇ」

「あ? お前こそ聞いたことに答えずそんな口きくとか頭おかしいんじゃねぇのか?」


 ……殺伐とした雰囲気になってしまった。

 結衣でさえ喧嘩を止められず、涙目になってあたふたしている。

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