明葉の過去Ⅱ

「ふふふ……はー、おもろいなぁ……」


 お笑い番組を観ていた明葉は、大笑いしながら食べ物を口に入れていた。

 お笑い番組は楽しいし、夜の怖さが和らぐ。

 だから、明葉はよく観ている。

 この時だけは、一人でも楽しいと感じることができるから。


(そやけど……やっぱ……寂しいのに変わりはないなぁ……)


 明葉は悲しげな表情でご飯を見つめる。

 どう見ても一人分。

 家族みんなで食卓を囲んだ記憶など、数える程しかない。


(そう……うちに、一緒に食事できる人なんて――)

「うわあああ!!」


 そうやってセンチメンタルな感じになっていると。

 それをぶち壊すほどの大音量が響き渡った。


「な、何事やの……?」


 明葉は急いで声のした方へ走る。

 すると、広いに見覚えのある顔があった。

 雪のみたいに白く、毛先が桜色のグラデーションがかった髪。

 翡翠の瞳が凛と輝く、その人物は――


「ゆ、結衣さん……!?」

「あ、明葉ちゃん……」


 可愛らしい衣装に身を包んだ、魔法少女だった。


「な、なにしてはるの……?」

「あー……それがさ、ガーネットに鬼ダイエットさせられてたらガーネットが木にぶつかったみたいで……」

「もー、結衣様がちゃんと前見てないからですよぉ?」

「めっちゃすごいスピード出されて前見えるわけなくない!?」

「あ、あぁ……そういうことなんやね……」


 いつも静寂さしかない広い庭が、途端に賑やかになる。

 真っ暗で怖いだけの夜の庭が、今日だけは輝いて見えた。

 その時、明葉の中で何か暖かいものが込み上げてきた。


(ああ……これは……)


 楽しかったり、嬉しかったり。

 そんないい感情がたくさん集まったもの。

 ――“幸せ”、だ。


 明葉は涙を堪えながら、目の前のものを見る。

 広い庭を綺麗に、俊敏に飛び回るステッキと魔法少女。

 その二つに向けて、言う。


「……今度、うちに遊びに来てな……」


 その声が届いたのかはわからない。

 だけど、きっと……結衣は来てくれるのだろう。

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