幕間 少女たちの過去(後編)

夏音の過去

 あの時の両親の会話を聞いてから、今までずっと安心できたことなんてなかった。

 いつか捨てられるかもしれない。

 そんな不安に襲われていたからである。

 だからこそ、結衣に救われて初めて安心できる居場所ができた気がした。


「確かに嬉しかったけど……このままでいいんですかにゃあ……」


 孤独感は癒えたが、家での不安が消えたわけではない。

 当然ではあるが、結衣は夏音の家にいてくれることはないのだ。


「自分で落とし前つけるしかなさそうですにゃあ……」


 夏音は覚悟を決め、一歩踏み出した。


 ☆ ☆ ☆


「え……あの時の話……聞いてたの?」

「そうだったのか……」


 旅館での仕事がひと段落したところで、夏音は両親を呼び出して全てを話した。

 ――あの時の両親の会話。それを聞いていたこと。それを聞いて悲しかったこと。不安だったこと。

 その、全てを。


「……そう。ごめんなさいね……そんなに悲しい思いをさせちゃって……」

「ああ……ごめんな、夏音。だがな……それは――お前の勘違いなんだよ」

「……にゃ!?」


 父親の思わぬ一言に、夏音は間の抜けた声が出る。

 だが、夏音の困惑を置き去りに、父親はなおも続ける。


「確かにあの時はあんなことを言ってしまった……だが、あの時は経営が苦しくて……」

「にゃ? それのどこが勘違いなんですにゃ?」

「え? いや、だから――」


 と、その時。

 何かが猛スピードで迫ってくるような音が聞こえた。


「ワンワン!」

「あ、あら……ここに来ちゃったのね……」


 それは、大きな犬だった。

 金色の毛がとても綺麗に靡いていて、黒くて澄んだ瞳が星のように輝いている。

 その、夏音にとって見慣れたその犬は――


「え、も、もしかして……育てられないって言ってたのは――」

「そう。――うちの看板犬、クッキーだ」

「ワン!」


 その時、夏音は自分がどんな表情を浮かべていたのか……よく分からなかった。

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