第176話 水子供養
結衣のお母さんになった妹は、もう一人の赤ちゃんのことも忘れていなかった。
だから水子供養をすることに決めていた。
水子とは、生まれることができなかった子どものこと。
生まれてこなかった赤ちゃんの霊を、地蔵に祀るのがならわしになっている。
水子供養は必ず行う決まりはない。
ただ、生まれることができなかった赤ちゃんに対し、供養したいという気持ちがあれば行うのがいいと言われている。
水子へ愛しているという想いを伝えたい時や、水子の幸せを願っている時に行うのだ。
だが、それを見ていた本人は、素直に受け取ることが出来なかった。
(今さらなんの償いだよ……っ。そんなことするぐらいなら……産まれさせてくれればよかったのに……!)
少女にとっては、妹が邪悪な犯罪者にしか見えないのだ。
自分が完全な被害者で、妹が完全な加害者。
ともすれば悪霊になっていたであろう少女は、圧倒的な理性でそれを抑え込む。
(こんなところで悪霊化したら即あの世へ送られる……っ! そんなのは嫌だ……!)
少女がどう報復しようか考えている時。
水子供養用のお地蔵様が少女に迫ってきていた。
「な、なんなんだ!? 誰だ、お前!」
「あなたをお迎えに参りました」
「はぁ!? ……っ! あいつっ!」
少女が再び妹へ目を向けると、お地蔵様に手を合わせているところだった。
その光景に、少女は思わず舌打ちする。
そしてどんどん自分に迫るお地蔵様に、為す術なくあの世へ送られようとしていた時。
「……あ」
――また、一冊の魔導書のような本が目に入った。
少女はそれをすかさず手にし、しっかりと抱きしめる。
大切なもののように、なくしたくないもののように――大事に。
「……俺は、まだ……あの世へ逝わけには――いかないんだよっ!!」
少女が感情を込めて叫ぶと、それに呼応するように本が光り出す。
その光に、お地蔵様は姿を消した。
(な、なにが……何が起こって……)
あまりに現実離れした光景に、混乱することしか出来なかった少女。
だが、光り出している本が放った言葉に、少女の脳が落ち着く。
「――お主の“願い”はなんじゃ? その強烈な胸の内を、明かしてみよっ!」
(――あ、そうか……俺は――)
心の中で自分の願いを再確認すると、そこから少女の意識は黒く染った。
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