第174話 真実が明かされる

 あの時のことを、今でも後悔している。

 ――なぜあんなことをしたのか。

 ――もっと他に何かあったはずなのに。


 ……なんで。

 ……あの子を、見捨ててしまったのか。



 ☆ ☆ ☆


 叔母さんの姉――つまり、結衣の本当のお母さんが妊娠してから十ヶ月が経った。

 そろそろいつ産まれてきても不思議はないぐらいに、お腹が膨らんでいる。

 当時の叔母さんは、胸を高鳴らせていたという。


「お姉ちゃーん! 久しぶり!」

「わー、久しぶり〜! 元気にしてた?」

「お姉ちゃんこそ。身体は大丈夫? どこか悪くなったりしてない?」

「あはは。心配性だなぁ。大丈夫大丈夫!」


 姉妹の和気あいあいとしたやり取りは、病室を明るくさせる。

 妊娠の影響で身体に不調が見られる妊婦さんたちにとって、二人のやり取りが日々の楽しみになっている節がある。


「んで、いつ頃生まれるの〜? 早く見たいな〜! 絶対お姉ちゃんに似て可愛いよ〜!」

「んー、そうだなぁ……出産予定日はあと一週間ぐらいだったかな」

「へー! じゃあその通りだとしたらあと一週間で見れるんだ! 楽しみ〜!」


 テンション高くワクワクしている様子は、まるで子どものようだ。

 そんな妹の様子を、姉は微笑ましそうに見ている。


 このまま何事もなく、平和に出産が終わるんだと誰もが思っていた。

 なのに、なぜ――


「お姉ちゃん! お姉ちゃん!?」


 妹は切羽詰まった声を出す。

 自分の姉の様子が、一瞬にして急変したのだ。

 なぜこうなったのか、誰にもわからない。


「お姉ちゃんっ! しっかりして! お姉ちゃんっ!」

「うっ……うぁあ……っ!」


 姉は苦しそうにお腹を押さえている。

 看護師さんは慌てて出産の準備を始めた。

 だが、段々姉の脈拍が弱くなり、呼吸が乱れていく。


「……これはもう、覚悟を決めた方がいいかもしれません」


 助産師さんの放った言葉に、妹は感情的になる。

 この助産師さんの言葉が、妹にとっては非情に聞こえたのだ。


「何言ってるんですか! どうにもならないんですか!?」

「…………残念ながら……母子ともに無事でいられる保証はありません。どちらかを選んでいただかないと……」

「そんな!?」


 助産師さんもこんなことは言いたくなったのだろう。

 だが、妹はパニックになり、そのことを汲み取れなかった。


 ――姉の命か。それとも赤ちゃんの命か。

 どちらも大切だし、どちらも失いたくないものだ。

 そんな時、姉は息たえだえに言った。


「……お願、がい……私のことはいい……から……この子たちを……」

「そんな……やだよ……! お姉ちゃんを死なせるなんて……!」

「……お願い」


 やけに重く響いた姉の言葉。

 妹はそれに逆らえず、赤ちゃんの命を救うことにする。


「でも……こんなの……ねぇ、お姉ちゃん。私、嫌だよ。こんなことになるなんて」

「……だい、じょうぶだよ……私の事は……気にしないでいいから……」

「な、何言って……うぅ…………わかっ、た……」

「うん…………よろしくね……後は、頼――」


 それが、姉の最期の言葉となった。

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