第156話 本当の結衣はどこに?

 天使を討ったことに満足したらしい魔王は、器用に――地面に降り立った。


 ぐったりと、あお向けで倒れている天使。

 そんな天使を、魔王は無表情で見おろす。

 その時、天使から突如黒いモヤが放たれた。


「な――っ!?」


 突然の光景に、魔王は天使から遠ざかる。

 天使とはもはや呼べないほどの、黒い物体に成り果てた。


「……なるほど。これ――か――ッ!」


 なぜかとても楽しそうに、魔王は嗤った。

 そして真央は、誰かに話しているように喋る。


「ハンッ! 、どれだけの力を溜め込んだ? いいじゃん、決着つけようかァ!」


 そう言い放つと、魔王は唐突に姿を消した。

 否。消えたように見える姿は、実際にはそこにある。

 そう。これは、『』だ!


 『認識阻害シャットアウト』をかけた魔王の姿は、誰にも視えないはずなのに……

 どこからともなく降り注ぐ矢の嵐は、正確に魔王の姿を捉えている。

 魔王は『増幅ブースト』でギリギリ躱しているが、いつ矢が当たったとしてもおかしくない。


(チッ……厄介な矢の嵐だな。だが――ッ!!)


 内心吼えると、魔王は認識阻害魔法を解いた。

 そして、新たな詠唱を唱える。


「全力全開!! ――大砲バング!」


 すると、結衣の必殺技である魔力砲が繰り出される。

 魔王に敵の姿は見えないが、この攻撃を出すことに意味があるのだ。

 ――ほら、見えたっ!


「結衣のこと嫌いとかうざいとか言ってたくせに、随分肩入れしてんじゃねぇか」

「……別にミーはそんなこと言った覚えはないんデスケドネ」


 唐突に、だけど自然に。

 魔王の前に現れた吸血鬼は、不機嫌そうに言う。

 この空間――いや、先程の黒いモヤや矢の嵐は全部吸血鬼のしわざだ。


「……で、何しに来た? お前の提案を受け入れなかったから俺を消しに来たのか?」

「そんなんじゃないデスヨ」


 吸血鬼は俯きながら言う。

 声は小さく呟くような感じではあったが。

 口だけ、笑っていた。


 その笑顔に、魔王は言い知れぬ“何か”を感じた。

 どこか恐怖を感じられる笑みに。

 魔王はそれを排除しようと駆け出す。

 ――だが。


「やめて……っ!」


 その声に、魔王は条件反射的に止まる。

 そして、自分でも訳が分からず、一粒の涙を流した。

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