第142話 魔王のような少女

 お昼ご飯を食べてからしばらく経ち。

 野外学習のメインである、自然体験を行う時間になった。

 ――が、結衣はその準備に手間取っている。


「あわわ……あれ? ペンがどっか行った!」

「結衣さん、そこにあるやろ……」

「え? あ、ホントだ!」


 わたわたと慌てながら、勢いよくペンを持つ。

 だが、それはペンではなかった。

 結衣は、魔法のステッキを握っていたのだ。


「ひぃ……っ!」

「ん? どうしたの?」

「はやくしないとまた怒られるよー?」


 結衣は血の気が引いたが、明葉以外のみんなは気づいていないようである。

 結衣は内心ホッとし、魔法のステッキをカバンの奥に押し込めた。

 「ぐえっ」という音が聴こえた気がしたが、気のせいだろう。


「遅くなってごめんね……急ごう!」

「そうやね。急がんと……!」


 結衣たちはパタパタと足音を立てながら、部屋から去っていく。


 嵐が過ぎ去ったような静寂の中。

 ガーネットは結衣のカバンの中から、ステッキの頭の部分だけを出す。


「……結衣様たち行っちゃいましたよ? いいんですかぁ?」


 ガーネットがそう問う視線の先には、一人の少女が腕を組みながら立っている。

 はじめからそこにいたように……自然に。


 その少女はガーネットの呼びかけに、炎のような真っ赤な髪と琥珀色の瞳を不機嫌そうに揺らす。


「はぁ? 俺は別にあいつと話したいわけじゃねーし」


 照れ隠しでも何でもなく、本当に話したくなさそうだ。

 男っぽい口調も相まって、威圧感が半端ない。


 そんな、のようなオーラを放つ少女は、結衣の魔王モードの姿にそっくりだ。

 いや、そっくりなんてレベルではない。

 結衣の魔王モードにしか見えない。


「え、でもあの時――」

「うるせぇ。ほっとけ」


 少女はガーネットを睨むと、空気に溶け込むように消えていった。

 ガーネットは呆れた様子で、結衣のカバンの中に消えた。

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