第130話 本屋で出会ったのは……

 遊園地へのお出かけが終わり、また普通の日常が戻ってきた。

 ……いや、まあ、ガーネットがいるから普通かと言われれば首を傾げてしまうが。


 さて、比較的普通の日常が戻ってきた結衣が何をしているのかと言うと。


「……こ、これは……!」


 驚愕していた。

 なんでこんなことが起きているのだろうと、嘆きそうになっている。

 結衣は絶望していると言っても過言ではない。

 わなわなと肩を震わせ、叫んだ。


「怖い本がなくなってるー!?」


 そう。少し前に真菜と行った新しい本屋に、また来ていたのだ。


 だが、結衣がほしいと思っていた本がどこの棚にも置かれていない。

 在庫がないのか、誰かにごっそり買われたか。

 それとも――


「……もう売ってないのかな……」


 元々置かれていた所には、別の本が置かれている。

 だから、ここにはもう売っていないと見るのが妥当だろう。


「はぁ……せっかくお小遣いもらってここまで来たのになぁ……」


 結衣はため息をつき、店を出ようとする。

 するとその時、文房具コーナーで見知った顔を見かけた。


「……え、せーちゃん!?」

「あれ、結衣!?」


 結衣が名前を叫ぶと、猫のような黄色の瞳を見開いて驚くせーちゃん。

 その両手には、一冊の本が握られている。

 結衣はそれにすばやく気づき、せーちゃんに近寄る。


「へー、せーちゃんも本に興味あるんだね! どんな本見てるの?」

「えっ……! いや……その……」


 せーちゃんは、バッと本を自分の背中に隠した。

 よほど見られたくないのか、はたまた反射的に隠したのか。


 おそらく前者だろう。

 ゆでダコのような、真っ赤な顔になっているから。


 そこで結衣は、ピーンと何かが閃いたような顔をした。


「……そっかー。私には見せたくないんだー。ふーん……」

「……え、あ、あの……結衣?」


 結衣の悲しげに聞こえる一言に、せーちゃんの顔が青ざめていくのが見て取れた。

 だが、結衣はなおも口撃を続ける。


「そんなに私のことが嫌いだったんだね……わかった……じゃあね……」

「ちょちょちょ……っ! 待ってよ! あたし別にそんなつもりじゃ……っ!」


 結衣の寂しげな様子に、いたたまれなくなったのか。せーちゃんは慌てふためいて結衣を引き止める。


 せーちゃんは、わりと本気で血の気が引いていたが。

 結衣の小馬鹿にする笑顔に気づき、せーちゃんはその笑顔で全てを察した。


 そしてまた、せーちゃんの顔がゆでダコになった。

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