魔法少女になれたなら

主人公の苦悩

「う〜〜〜ん……」

「どうしたんですかぁ？　そんな犬みたいな唸り声出してぇ」

「うーん……」

「え？　無視ですか？」

　結衣とガーネットは今、真菜の家に遊びに来ている。

　真菜には親がいないとは聞いていたが、家の中は清潔で、埃一つ落ちていない。

　真菜は、いつもちゃんと掃除をしているのだろう。

　家はそれほど広くはないが、狭くもない。十分にくつろげるのだが……

「うーん……うーん……」

「だからぁ……さっきからどうしたんです、結衣様？」

「ほぇ？　あー……それがさぁ……」

　やっと結衣の耳にガーネットの声が届き、軽く会話をすると、ガーネットに耳打ちした。

　ガーネットは一通り話を聞き終えると、「ふむ……」と言って悩みだす。

「えーっと……つまり結衣様が言いたいのって……」

　と、ガーネットが話を切り出そうとすると、

　――ガチャ。

「お待た……せ〜。お茶と、お菓子……持ってきた……よ……！」

　キッチンでお茶とお菓子の用意をしていた家の主――真菜が部屋に入ってきた。

　そうして、ガーネットは何も言えなくなった。

　――当然だろう。なにせ結衣は……

「何の、話……してた……の？」

　真菜が笑顔で訊いてくる。

　だが、結衣は本当のことが言えなかった。

「あ、あはは……今日の夕飯何かな〜？　って話してて」

「ふーん……？」

「あ、そうだ！　今度さ、一緒に花火大会行こうよ！　ちょっと遠いとこだけどさ」

　結衣は話をはぐらかしたかっただけなのだが、真菜が想像以上にキラキラした瞳で、

「え？　いい、の……？」

　そう訊いてきたので、結衣は良心が痛んだ。

　☆　☆　☆

「結衣様ぁ……本当のこと話した方がいいんじゃないですかぁ？」

「えぇ？　そんなの無理だよぉ……」

　あれからしばらく時間が経ち、結衣は「トイレ借りるね」と言って部屋を離れた。

　だが結衣は、未だに真菜に訊くべきかどうか迷っている。

　そして言い出せず、今結衣はトイレの前で突っ伏している。

　……と言うか、土下座していた。

　あまりに心が痛んだせいか、正常な行動が出来なくなっているのだろう。

　結衣の行動を遠巻きに見ていたガーネットは、突然真菜のいる部屋へ猛突進した。

「はぇ！？　ちょ、ちょっと！？！？」

　結衣は遅れてガーネットについていく。

　だが、ガーネットの方が先に突っ走ったから、当然ガーネットの方が先に部屋に辿り着いた。

「結衣様は焦れったいんですよぉ！　もっと勇気を持って！」

「えええ？　そんなこと言われてもぉ……」

　言い淀む結衣に、ついにガーネットの我慢が限界だったのか、物凄い勢いで部屋の扉を開けた。

　早わざすぎて、ステッキがどうやって部屋を開けたのか――まるでわからない。

「え……？　え？　どう、した……の？」

　目を白黒させて、真菜が問う。

　その疑問に、ガーネットが答えようとする。

「真菜様、実は――」

「はわー！！！　ストップ、ストーップ！！」

　大袈裟なほど身振り手振りを付け加えて叫んだ結衣に、真菜の視線が注がれる。

　結衣はゴホンと咳払いをすると、

「あ、あのさ……その…………」

　そうやってしどろもどろに会話を切り出し、勇気をだして言った。

「真菜ちゃんってさ……！　その……む、胸……大きい……じゃん？ その……どうしてかな〜……って、思って……」

　一瞬の沈黙が襲う。その一瞬の間が、結衣はとても辛かった。

　だが、肝心の真菜はと言うと――

「……え？　私の、胸……が……？　そんな……こと……無くない……？？」

　結衣は一瞬はぐらかされたのかと思ったが、真菜は真面目な顔をしているので、真面目に言っているのだろう。

　しきりに視線を自分の胸に持っていき、首を傾げている。

　だけど、結衣は恥ずかしさもあってか、食い下がった。

「そんなことあるよ！　あの戦闘服も体のラインはっきり――っていうかあまり隠されてないから分かるんだけど！　大っきいよ！」

「結衣様の声の方が大っきいですよ……」

　空気を読んで、今まで空気だったガーネットからのツッコミが飛んでくる。

　だが、その声は結衣には届かなかった。

　真菜は困った様子で、オロオロしている。

　顔を赤く染めて、自分の手で胸を隠すようにしている。

　その時――

「おーい、遊びに来たわよ〜！」

「お邪魔しまーす」

　家のドアが開く音がしたら、そこから二人の少女が家に入ってきた。

「あ、せーちゃんと緋依さんだ……！」

「二人とも……呼んでた……の、すっかり……忘れてた……」

　二人が来たら、こんな話は出来ない。

　結衣はそう考え、

「あ、えーっと……この話はまた今度で……」

「え、あ……う、うん……」

　そう言って、今日はこの話を終わらせ、四人……四人と一本で、他愛のない話を楽しんだ。

　だけど、結衣は知らない。

　この後タイミングが掴めず、二度とこんな話は出来ないと言う事を。