第120話 ジェットコースターにて

「おおー! き、ききき緊張するなぁ……っ!」

「あはは。結衣ちゃん面白い顔してますよ?」

「ふぇ!? そんなに変な顔してた……!?」


 結衣たちは今、ジェットコースターの序盤の所を体感している。

 つまり、ジェットコースターの大きな上り坂にいるのだ。

 そして、結衣の隣には緋依が座っている。


「うわわ……すっごいガコガコしてる……!」

「なんだか楽しいですね!」


 結衣は忙しなく辺りを見回す。

 こういう所の緊張感は半端じゃない。

 なんと言うか……こう、今からでも逃げ出したくなるような気持ちになってしまう。


 だが、何故か緋依は余裕そうな顔をしている。


「……す、すごいね緋依さん。怖くないの……?」

「え? なんでですか? すっごくワクワクす――るっ?」


 そんな会話を交わしていると、ちょうどてっぺんまで来ていたようだ。

 結衣は顔を引き攣らせ、緋依はというと。


「ひえあああああ!?!?」


 ものすごい形相で叫んでいる。

 自分よりテンパる人を見て、結衣は少し冷静になることが出来た。


 余裕そうだった緋依が、なぜこんなにも怖がっているのか。

 それは、多分。


「も、もしかして……遊園地に来たことがない、とか……?」


 それならば納得がいく。

 緋依の家庭は、なんというか……普通じゃないから。

 遊園地に来たことがなくても、不思議じゃない。

 なら――……


「めいいっぱい、みんなと楽しまなきゃね……」


 そんなことを呟いて、結衣は風に打たれた。


 ☆ ☆ ☆


「ふひええ〜……もう無理……無理ですぅ……」


 緋依は、ベンチでグロッキー状態になっている。

 先程のジェットコースターが余程堪えたのだろう。


「大丈夫? お水あるわよ?」


 結衣のお母さんが、心配そうに声をかける。

 みんな心配そうに緋依を見ている中、せーちゃんは。


「まったく……これぐらいで音をあげるなんて、だらしないわねぇ……」


 と、呆れ気味に零す。

 そう言いつつも、タオルを渡しているのだ。

 本当に、素直じゃない。

 結衣はそう思って、顔をゆるめた。


「どうしたんです、結衣様? 随分嬉しそうですがぁ」


 またもやガーネットが、小さな声で話しかけてくる。

 本当になぜ、結衣の変化がわかるのか謎である。

 だが、その真相を知るのもこわいため、訊かないでおいた。


「みんなと仲良くなれて、本当によかったな〜って思ったの」


 結衣は遠い昔を懐かしむようにして、空を見上げる。

 その空は、結衣たちの行く末を照らし出してくれているように見えた。

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