第94話 転校生がやってきた!

「いってきまーす!」

「はーい。いってらっしゃい」


 結衣は元気よく家を飛び出し、学校に向かう。

 今日は図書室に、新しい本が色々入ってくるらしいのだ。

 結衣はその事に、テンションが上がっていた。


「わー! すっごくワクワクするなぁ……! いったいどんな本が入ってくるんだろう!」

「結衣様は本当に本がお好きですよねぇ〜」


 ランドセルの中に入っているガーネットが、なぜか嬉しそうに言う。


「と、言うことはぁ! 私のことも大好きだと思われてる――と言うことですよねぇ!」

「いや、それはないから。ていうか! 今は魔法のステッキなんじゃないの!?」

「私は魔法のステッキであり、本でもあるので大丈夫なのです!」

「もうガーネットがわからないよ……」


 そんな風にまた、いつも通りの会話を交わして学校に着く。

 すると、なにやら教室が騒がしい。

 いつも活気がいいが、今日はどこか違う。


「え、なんなんだろ……この空気……」

「なんなんでしょうねぇ〜? なんだかすごいことが起こりそうでぇす!」


 結衣が独り言を呟くと、ガーネットが小声で結衣の声を拾った。

 その声をスルーし、結衣は自分の席に着く。


 結衣の席は窓側の一番後ろ。

 いわゆる“主人公席”というやつだ。


 ……という話はどうでもよくて。


「おはよう、みんな!」


 結衣が席に着いたと同時、担任の水谷先生が入ってくる。

 元気がいい先生の声に、みんなが席に着く。


「突然だが、今日は転校生を紹介する」

「えっ……!?」


 教室中にどよめきがはしる。

 結衣も思わず、疑問の声を零してしまった。

 本当に突然のことに、心の準備が出来ていない。


 そうしている間に、転校生の子が教室に入ってきていた。

 落ち着いた黄緑色の長い髪を二つに束ね、橙色の綺麗な瞳をしている。


 そんな転校生の第一声が。


高柳明葉たかやなぎあきはどす。どうぞよろしゅう♡」


 まさかの京都弁だった。


 結衣は吃驚しすぎて、声が出ない。

 結衣の住んでいる所は、京都へ行こうとすると新幹線が必要なぐらい遠いから。


「ほああ……すご……」

「ほー……京都弁キャラですか……いいですねぇ〜……」


 ガーネットがなぜか上気した声を発する。

 が、結衣はそれを無視する。


 改めて見てみても、さすが京都出身というべきか。

 奥ゆかしい笑顔に、しなやかな動き、和風美人という言葉が良く似合っている。


 隣に立てば、恥ずかしくて絶対距離を置いてしまうようなほど顔立ちがよい。

 そんな風に、結衣が性別を忘れて見とれていると。


「じゃあとりあえず……椎名の隣でいいな?」

「――はい?」


 突然現実に引き戻された。

 そう言えば、隣の人がいない。休みなのだろうか。


「椎名の隣は今日休みだから、今日はその席に座ってくれ。明日から正式な席を用意するから」

「はーい」


 ……ま、マジですか。

 結衣はどう反応すればいいのかわからず、とりあえず下を向くことにした。


 こんなに美人な転校生が隣にきたら、自分と比べられるに違いない。

 結衣はそう思って、下を向くことしか出来ないでいる。


 そうこうしているうちに、美人な転校生が隣に来ていた。


「椎名さん……やっけ? よろしゅうなぁ」

「え……あ……えっと、気軽に『結衣』って呼んでよ」


 結衣が若干引きつった笑顔そう言うと、転校生は目を見開いた。

 だが、それも一瞬のこと。転校生はすぐに笑顔を浮かべる。


 そのことに、結衣は少し違和感を覚えながらも、知らんぷりを決め込んだ。


「じゃあ、うちのことも気楽に『明葉』って呼んでくれへん?」


 転校生――明葉がそう言うと、結衣に手を差し出す。

 そして、


「どうぞよろしゅう――結衣さん」

「え、あ……うん! よろしくね――明葉ちゃん」


 挨拶を交わすと、二人は笑顔で握手した。

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