第84話 チョコレートパフェを食べたい

 自分が歪なのは、自分が一番わかっている。

 自分は忍者。暗殺者のように、ひっそりと“敵”に気づかれずに責務を全うするだけ。


 なのに、どうして――


 こんなにも――……


 ☆ ☆ ☆


 なにが、どうなっているのだろう。


「ゆ、結衣様……」

「ガーネット……」


 結衣は今、かつてなく絶望している。

 これは、どういうことなのだろう。

 まさか……まさか――


「ファ○マにチョコレートパフェがないなんて――ッ!」


 ……そう。

 ファ○マというコンビニで、結衣は今日のおやつを選んでいた。

 なのに、結衣の好きなチョコレートパフェがない。

 これは、由々しき事態だ。


「ううぅ……チョコレートパフェが食べたいよ……」

「結衣様ぁ……かれこれ30分はここにいますよぉ? もう諦めた方が――」


 ……確かに、ガーネットの言う通りだろう。

 チョコレートパフェが今日ないなら、明日買えばいい。

 ファ○マにないなら、他のコンビニで買えばいい。

 だけど――


「他のコンビニは近くにないし! なによりっ! 今日食べたいの――ッ!!」

「誰に語ってるんですかぁ……?」


 呆れたように零すガーネットの声を無視し、結衣は再びデザート売り場を見やる。


 チョコレートパフェよ出ろ――ッ!

 ……って感じで出ないかな。


「ねぇ、君。君が欲しがってるのはこれかい?」

「……へ?」


 ガーネットの力で何とかならないかと思案していたら、声をかけられた。


 その人の手には、チョコレートパフェ。

 結衣が待ち焦がれていたスイーツがある。


「え!? あ、あの……え??」

「あっはは。面白い顔をするね、君」


 ……すごく怪しい。

 ……だけど。

 ……ほ、欲しい。


 結衣の頭の中で今、葛藤が繰り広げられている。

 長い黒髪を揺らす――結衣と同い年ぐらいの少女からチョコレートパフェを受け取るか。

 実に悩みどころである。


「そんなに警戒しなくても……とって食ったりしないよ」


 ほら、とチョコレートパフェを結衣の手に乗せて去っていった。


「え、なんなんだろう……」

「なんなんでしょうねぇ? 何か裏があるようにしか見えませんけど……」


 今まで隠れていたガーネットが、結衣と同じように疑問を零す。

 知らない人から物を貰っちゃダメって、分かってはいるけど。


 結衣はチョコレートパフェを、半ば反射的に受け取ってしまった。


「ど、どうしよう……」


 結衣はチョコレートパフェを持ったまま、その場に立ち尽くすしかできなかった。

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