第68話 ついに切れた

「力を制御しきれていない……って、なんで……そんなこと――」


 夏音は驚愕のあまり、言葉に詰まる。

 自分でも、心臓が張り裂けそうなほど、ドクンドクン脈打っているのがわかる。

 何故せーちゃんは、そんなことを知っているのだろうか。


「だってあなた、“願い”が強すぎるんだもの」

「――!?」


 訂正。せーちゃんは、何をどこまで知っているのだろう。

 本心も本音も、全部自分の心の中に隠してきたのに。


 夏音はさっきから、驚くことしか出来ていない。

 反対に、せーちゃんは目を伏せながら冷静に告げているだけ。

 なんだろう。この気持ちは。


「夏音の“願い”が何か……せーちゃんさんは知っているって言いたいんですかにゃ……?」

「まあね。そういうことになるのかしら?」


 夏音の驚愕なんかどうでもいいのか、せーちゃんは苦笑する。

 そしてまだ、何も言わない。


 せーちゃんは知った風な口を開き、夏音の心を掻き乱すことが目的のように振る舞う。

 それが、なんだか、とても。


「そんなの……夏音の地雷を踏むだけって――分からないんですかにゃ……?」


 夏音は低く唸るように言う。

 怒っているのか、泣いているのか。夏音は自分でもわからなかった。

 今、自分がどういう顔をしているのかも。


 だが、せーちゃんはおもむろにお風呂から立ち上がると、


「ごめん、ちょっとのぼせそうだわ。お先に失礼するわね」


 見事に夏音の堪忍袋の緒を、切った。

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