第64話 やっぱりこの子が……
「ま、まさか……夏音ちゃん!?」
「いかにも! その通りですのにゃ!」
結衣が問うと、夏音はオーバーリアクションをした。
クルクル回り、かっこいい……のかどうか微妙な決めポーズを取ったのだ。
「なんかツッコんでほしいですのにゃ!」
「……いや、そんなこと言われても……」
ツッコんでほしくてやっていたのか。
結衣はなんだか悲しくなり、ツッコミ役が定着しつつある自分を――何故か知っているらしい夏音のことを、一周回って感心していた。
だが、真菜は何がなにやらという困惑顔である。
「結衣……その……子、誰……?」
戸惑いながらそう問うた。
確か真菜は、夏音に会っていなかったような気がする。
「あー、この子は秋風夏音ちゃん。この前温泉に行った時に出会った子だよ」
結衣が真菜に軽く説明すると、夏音は軽く会釈する。
「それで、そちらのおねーさんはどなたですにゃ?」
「あ、そっか。真菜ちゃんについても説明しなきゃか……」
そんなこんなで、結衣たちは和気あいあいとお喋りを楽しんでいたのだが、窓の外を見ると、すでに地上に灯りがともり始めている。
闇を放つ夜空とのコントラストが、はっきりしてきている。
「って! こんなことしてる場合じゃないよ!? 早く帰らなきゃ!」
結衣は焦って二人を急かすと、
「え……? 何、言ってる……の? まだ、七不思議は……三つしか……まわってない……んだよ!?」
何故か怒られてしまった。
「……七不思議、ですにゃ?」
「あぁ、うん。今七不思議を全部見て回ろ〜! ってやって……るん、だ……け――」
結衣はそこで言葉を切った。
夏音は結衣の顔を見て、ニヤリと笑う。
ずっと違和感があった。と言うか、違和感を感じなきゃいけなかったのに。
でも、結衣はそれに対して警戒せず、それどころか進んで招き入れた。
――招き入れた? 違う。
結衣がそれに気付いたと同時、夏音は身構えて戦闘態勢を取る。
頭から獣の耳を生やし。大きな尻尾を携え。ヒラヒラの可愛かった洋服が、落ち着いた和服になる。
「夏音はずる賢くて卑怯な狐ですのにゃ……」
夏音は低く、小さく、唸るように声を絞り出して言う。
そして、言葉を紡ぐたびに夏音の周りに黒い影が増えていく。
結衣と真菜は、その光景をただ呆然と見ていることしか出来ずにいた。
その間も、夏音は俯きながら言葉を零す。
「ここは音楽室。なら、死のリズムを刻んで逝ってくださいですにゃ」
言い終わると同時、無数の黒い影が結衣たちに襲いかかろうとしていた。
「ガーネット!」
結衣はガーネットを掴み、変身する。
真菜も咄嗟に狩人姿になる。
黒い影は何かを求めるように手を伸ばしながら蠢く。
口みたいなものをパクパクさせ、何かを発しようとしていることがわかる。
「あ……ア゛ア゛…………」
その影は、今にも死にそうな声を放つ。
――ゾワッ、悪寒がする。鳥肌が立つ。気持ち悪い。
その声はただ放たれただけ。実際は何もされていない。
なのに――
「……きもちわるい」
「ゆ、結衣様?」
結衣は無意識に呟いていた。
ガーネットはそれを耳ざとく拾うと、震える。
ガーネットの目に写った結衣の顔がどんな風になっているか。それは、歪んでいるのだろう。
その歪な感情のまま、結衣は黒い影を蹂躙する。
――消さなきゃ。
――殺さなきゃ。
――壊さなきゃ。
真菜と夏音が結衣の姿を見て、目を剥いた。
ガーネットは声もなく、息を呑む。
「ハッ……ハハハハ!!」
結衣は堪えきれずに、声を上げて笑う。
音楽室を揺らすほどの大声で、腹を抱えて笑った。
そして、ひとしきり笑い終えると、残っていた黒い影を一掃する。
ガーネットを掴んでいない方の手の中には、黒い光の槍みたいなものが握られていた。
そして、それを何が起こっているかわからないという顔をしている夏音に向ける。
「どうだ? まだやるか? ――
そうやって結衣が口角を上げると、夏音は肩を震わせて涙目になる。
――が、キッと結衣を睨むと、くるりと向きを変え、窓から飛び降りる。
ここは四階なのだが、まあ大丈夫だろう。
一応チラリと窓から顔を出すと、校門に向かって一目散に走っていく狐の少女が見える。
すると、真菜が――
「ごめん……ね、結衣……」
そう言うと、結衣に向けて矢を放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます