第55話 この子は何者……?

「えっとぉ……」

「その耳……なに?」


 結衣が口ごもっていると、せーちゃんがストレートに言う。

 そして、今も軽く揺れている――少女の頭に付いた耳を指差す。


 だが、少女は軽く首を傾げるばかりで、せーちゃんの問いには答えない。

 というか、答えられないのだろう。難しそうな顔をして、悩んでいるように見えた。


 しばらくの間があり、少女がハッと何かを思い出したような顔をする。


「あー……これのことですかにゃ? またおもちゃの耳付けて入っちゃったんにゃぁ……」


 少女は激しく後悔しているようで、そのおもちゃの耳とやらを――取った。


「えええ!? どゆこと!?」


 結衣はてっきり取れないものなのかと思っていたので、思わず疑問の声が大きく出た。

 さっきまで確かに、少女の感情に呼応するように動いていたはずなのに。


「んん? どうしてそんなに驚いてんですかにゃ?」

「え? いや、だって……!」


 純粋に疑問に思っているらしい少女に、結衣は何も言えなかった。

 その間に少女は、尻尾も元から無かったかのように取っている。


 もう結衣は何が何だか分からず、混乱することしかできない。


「……あなたは、何者なの……?」


 だが、せーちゃんは臆することなくその少女に話しかけた。


 ――やっぱりせーちゃんはすごい。と、結衣は思った。


 緋依の騒動の後、緋依にせーちゃんのことを聞いたら、圧倒的な強さを見せつけたにも関わらず、勇敢に歯向かったと言っていたから。

 結衣もせーちゃんみたいになりたいと、密かに憧れの念を抱いている。


 だが、問われた少女は何をそんなに警戒されているか分からない様子で、怪訝そうに言う。


「夏音のこと……? んー……何者って言われてもにゃぁ……そうにゃっ!」


 少女――夏音は不意にザバッとお湯から立ち上がると、胸を張って自己紹介をした。


「夏音は、秋風夏音あきかぜかのんですにゃ! そして、その正体は――ここの女将さんとおーなー? の一人娘! ですにゃ!」


 一瞬の沈黙。

 そのあと、時が一瞬止まっていたのではと錯覚させるほど大きな波がきた。


「女将さんとオーナー……? ってことは、まさか!?」

「実質、ここの旅館の跡継ぎってことになるじゃない!」

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