第30話 取り戻した友情
「まさか……あの子にこんな素敵なお友達が出来ていたなんて……」
「ああ……ぜひ、お礼を言わせておくれよ」
ハンカチで顔を覆い、涙に濡れた瞳で嬉しそうな笑顔を浮かべる真菜のお母さんと。
何やらお礼になりそうなものを探しているように見える真菜のお父さん。
結衣はそんな二人と会話したくて、黄泉の国へやってきた。
「あ、あの……私がここに来たのは、そう言ったことではなく――その……真菜ちゃんのことについて……」
「真菜? あの子に何かあったの?」
キョトンとした顔で、真菜のお母さんが訊く。
「ええ……その、なんと言いますか……実は――」
――…………
「まあ……そうだったの……」
「あの子が……そうか。そうなのか……」
何やら悲しさは滲み出ているものの、どこか納得したらしい真菜の両親。
「と言うことで……真菜ちゃんの願いが知りたくて……」
結衣はそんな二人を見ていたら、なんだか自分まで少し悲しくなってきてしまい、蚊の鳴くような声しか出せなくなった。
そんな結衣を察したのか、真菜のお母さんは結衣の頭を撫でた。
そして優しい声色で、
「あなたは……優しい子ね、どうか……真菜を守ってあげて?」
そう言うと、今度は真菜のお父さんが宥めるように言った。
「せっかく現実世界から来てくれたのに……悪いね。死人に口無しだ。助言してやることも出来ないよ……」
そこまで言うと、何やら二人で目配せし合い――
「だが、私たちに会って話したことを――真菜に伝えてやってくれないか?」
「ええ。せっかくだもの。土産話ぐらいは……してあげて?」
「ごめんね」と、悲しそうに結衣を見つめ、黄泉の国へと戻って行った。
だが、それでも――何かを遺してくれた気がして――
結衣は虚空を、時間を忘れて眺めていた。
「はっ! しまった! 急がないと!」
☆ ☆ ☆
「……様、結衣様! 起きてください! 結衣様!」
かつてないほど切羽詰まった声色をしたガーネットの声が聴こえる。
「ねぇ、結衣っ……! もう、あなたを……狙ったり……しない、から! ねぇ、起きて……よ……!」
ピチョンという音を伴って、何かが結衣の頬に当たる。
――真菜は……泣いているらしい。
水の感触でそう気付いた結衣は、真菜と同じで――泣きそうに、なった……
そうして結衣は重いまぶたを開けると。
案の定――大粒の涙を流してこちらを見ている真菜の姿と、今にも説教をせんと身構えているガーネットの姿があった。
「えへへ、心配かけてごめんね」
結衣はそう気の抜けた声で――チャラけた感じで言う。
「もう、結衣の……バカっ……!」
「結衣様なんてもう知りませんよーだ!」
すると、まるで子供みたいに拗ねた二人の子供が出迎えた。
「えー……?」
そうは言ったが、結衣は笑顔だった。そこにもう悲しみも、怒りもなかった。
友情を取り戻し、真菜を救えた達成感で胸がいっぱいだったから。
拗ねていた二人にも、嬉しさや笑顔が垣間見えた気がした。
――だから、どこかに去ってしまったせーちゃんのことを、結衣は忘れてしまっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます