第13話 禍津姫01
春馬の顔面を激痛が襲い、視界が
夏実を救う……そう決意して格好つけてみたものの、このザマだ。女に頬を焼かれて無様に転がっている。
──僕はなんて情けないんだ……。
春馬は痛みと悔しさを
──目を見て、名前を呼んで、契約をすればいいだけだ……。
春馬は震える膝を鼓舞して立ち上がった。両頬は赤黒く焼け
──はて……わらわはこの少年を知っている……しかし、
疑問に駆られて女は春馬の前にふわりと舞い降りた。
その時。
すっ。と、春馬は小さく息を吸いこんだ。
「
春馬は女の名前を呼んだ。『
──こ奴は……。
目の前の少年と、かつて禍津姫を『鏡の中の世界』へと封印した男の姿が重なって見える。それは、八頭大蛇に身を堕とす前、人間だった頃にただ一人、深く愛した男だった。
──な、なんということじゃ。
禍津姫の顔に驚愕が広がった。かと思えば、急にその眉尻が下がる。今度は禍津姫が切なさで身を焦がす顔つきになった。
「とこしえとも思える
禍津姫の白く細い手が春馬の胸や肩に触れる。今度は触れた部分が腐食してボロボロと床に落ちた。
「ぼ、僕は……あなたと……契約……」
春馬は激痛を耐え、ふらつきながら必死に言葉を絞り出す。それしかできなかった。すると、憐れむ目つきで見ていた禍津姫の口元が動く。
「正気かえ? わらわと『
「僕はあなたと……あなたの持つ力が欲しい」
「……」
少したつと禍津姫は
「その脆い体で『
急に禍津姫の目が殺気立った。返答
「禍津姫……僕は、あなたに安住と安息を約束する」
禍津姫の迫力に
「安住と安息……安住と安息……安住と安息……」
禍津姫は胸に手を当てて春馬の言葉を
「
禍津姫は顔を春馬へ近づけると、春馬のたおやかな息遣いを肌に感じて
「
禍津姫は囁くと春馬の薄い上唇に自身の唇を重ねる。次の瞬間、禍津姫の姿は
再び、『
蛇たちは赤い口をめいっぱいに広げて、立ち尽くす春馬の瞳へと一直線に喰らいつく。春馬は抵抗を一切せず、されるがままにその身を預けている。蛇たちは次々と春馬の瞳の中へと消えていった。
全てが終わると、春馬は糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。そして、
ドオン!!
巨大な『猜火ノ鏡』は倒壊した。
「春馬さん!!」
ようやく起き上がった
「春馬さん!!」
臣はもう一度叫んだ。しかし、返事はない。ホールは何事もなかったかのように静まり返っていた。
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