ボクは亡霊戦車に戦いを挑む

 機関銃が雨のように降り注ぎ、時折飛んでくる砲撃が爆発を起こす。

 ドローンが展開され、そこから銃弾が放たれる。

 移動するだけで多くの建築物が破壊され、地面がボロボロになる。


「うっはー。でっかいは正義だね!」


 大きさ10mの巨大戦車。三階建てほどのビルのような大きさで、その各部位に突起のように銃が設置されている。更には四個の主砲を兼ね備え、ミサイルをも装備してある。その重量は移動するだけでアスファルトを破壊し、触れただけで建物を砕く。

 各小窓からはドローンを繰り出し、威力偵察を含めた情報収集を行っている。ドローンで敵を見つけて、足止めしながらその箇所に火力を叩き込む。基本に忠実な戦術だ。


「あれが、パンツァーゴーストっすか……。兵器とゾンビウィスルの融合って聞いてたっすけど、あんな兵器、何処の国で秘密開発されてたモノなんっすか!」


 砲撃に耐えきれず、耳をふさぎながら叫ぶファンたん。それでもカメラ撮影を続けているのは動画投稿者の意地か。

 実際、何なんだあれはと言いたくなるような兵器だ。巨大戦車。それも建物レベルの大きさだ。火力も甚大で、歩く災害と言っても過言ではない。一発の破壊力はAYAMEに分があるだろうが、広範囲の蹂躙なら間違いなくパンツァーゴーストの勝ちになる。


「パンちゃん、改造とか大好きだもんねー」

「元々はの兵器だったが、それを乗っ取りそして改造を重ねた結果だ」

「弾薬とか燃料とかどんだけ積んでるんすかー!?」


 ファンたんのツッコミは最もだが、要するにそこらへんが彷徨える死体ワンダリングの能力なのだろう。

 

「まあとにかく。あの戦車に近づいて中に入って、パンツァーゴーストをぶっ叩けば終わりだね」

「……あの、マジで言ってるんすか? この雨あられな銃撃の中近づくとか、自殺行為っすよ」


 洋子ボクの言葉に眉を顰めるファンたん。そして視界を洋子ボクが手にしているバス停に向けた。


「武器だって、その辺に落ちてたバス停ぐらいで防具に至ってはAYAMEさんから借りた服と簡易のウィルス用マスクぐらい。防弾防刃とか全然ないんすよ?」

「大丈夫。全部避けるから」

「えー。血まみれのよっちー視たーい。ボロボロのよっちー視たーい。後ろから石投げていい?」

「ヤだよ。AYAMEが石投げたら、痛いじゃ済まないんだし」

「とはいえ実際のところ、パンツァーゴーストに挑むには心許ない装備だ。伊藤殿の懸念も正しいが、それを理解したうえでそう言っているのだな?」


 八千代さんの問いかけに、親指立てる洋子ボク。当たらなければどうと言うことはないのさ!


「……にしてもなんで都合よくバス停が落ちてたんだろ?」

「ああ、なんか昔バス停ブームがあったんす。えーと……なんかすごい活躍した人がバス停使って、それでバス停もったイロモノハンターが増えたんす。

 ブームが去って、大量にバス停が廃棄されたんすよ」

「その『すごい人』って僕の事だからね! いや、覚えてないのは仕方ないんだけどさ!」


 そっかー。あの時のニセバス停使いが捨てたものかー。ちょっともにょる。


『おい! どういうことだ貴様!』


 スマホから聞こえてくる声。パンツァーゴーストだ。


「どうって。殴りに来たんだけど?」

『なんで俺が殴られないといけないんだ! 殺すぞ!』

「いやボクハンターだし。相手の居場所が分かったんなら殴りに行くのは基本でしょ?」

『野蛮人か貴様は!』


 余裕がないのか、ビジネス用語っぽい罵りは聞こえない。


「キミさあ、電話越しじゃないと強気になれないタイプなの? 殺すとか野蛮人とか、セリフがザコっぽい」

『うううううううるせぇ! それ以上近づいたらころ……ミンチにしてやるからな!』


 そして通話は切られる。うーん、ホント余裕のない奴。


「ね? パンちゃんオモロでしょ?」

「パンツァーゴースト殿の武装強化は臆病の裏返しだからな」

「いやいやいや。この銃撃は普通に死ねるし脅威っすからね」


 ビビるパンツァーゴーストへの感想を告げるAYAMEと八千代さん。そして至極真っ当なツッコミを入れるファンたん。


「この二人は『死なない』からなぁ」


 AYAMEも八千代さんもこの程度では『死なない』から言える言葉だ。ファンたんや洋子ボクは銃弾の嵐の中に投げ出されたら、普通に死ぬ。


「その、貴方も普通に死ぬと思うんすけど」

「当たればね」

「普通は当たるんすよ、避けられなんすよ!? 何なんすかこの弾幕! 戦争とかじゃなんすからね!」

「ま、流石にこんなのがずっと続いたら無理だけどさ」


 軽く屈伸をして体をほぐし、戦場に目を向けた。硝煙弾雨とはまさにこの光景。ファンたんが戦争かと表現するのも、正しい激しさだ。

 でもまあ、この攻撃は続かない。途切れる時は必ず来る。


「隙はもうすぐできるよ」

「……なんでそんなことが言えるんすか?」

「そこはファンたんも知らない秘密さ」


 怪訝に思うファンたんにそう言って、洋子ボクはその時を待つ。ゲーム知識が当てはまるなら、あと3.5秒後。


「そんじゃよっちー頑張ってね」

「良き死合を」


 AYAMEと八千代さんがそう言って洋子ボクを送り出すような言葉を放つ。この二人はここで待機。パンツァーゴーストの戦いに介入しない。ここまで洋子ボクを案内はしたが、彷徨える死体ワンダリング同士で争うつもりはないらしい。


「そんじゃ、いっくよー!」


 何度目かの砲撃。その後に移動を開始するパンツァーゴースト。その際に攻撃が僅かに止む。その隙を縫うように、洋子ボクは移動を開始した。建物から飛び出し、別の建物に移動する。


「やっほー。すぐそっちに行くからね」


 その動きを捕捉するドローン。一定の距離を取りながら洋子ボクを観察し、隙あらば砲撃を仕掛けてくるルーチンだ。その情報はパンツァーゴーストに伝わり、それを元に行動してくる。

 それに向かって手を振り、すぐに建物の中に入った。洋子ボクを追うように建物を取り囲むドローン群。その内の何体かが建物の中に入り――


「ほーむらん!」


 洋子ボクのバス停に叩き潰される。空中にいるのならともかく、わざわざ狭い空間に入ってきてくれたのだ。バス停の届く範囲なら、叩き潰しておくに限る。


「次はこっちかな? いえいいえーい!」


 建物の中を走りながら、外にいるドローンにピースサインをする洋子ボク。それを見たドローンは洋子ボクを追い詰めようと移動を開始し、


「ほい。待ってました」


 上から降って来たパイプ椅子を避けきれずに墜落する。まさか窓を開けた洋子ボクが近くにあったパイプ椅子を投げてくるとは思いもしなかったようだ。

 まあ、洋子ボクも当たるとは思ってなかった。いい牽制になればと思ったぐらいだが、上手く当たってくれてラッキー。


「流石に慎重になるか。そんじゃそろそろ――」


 ドローンが建物内に入ってこなくなる。洋子ボクを前に慎重になった――というのもあるだろう。

 だからこそ、本気で叩き潰しに来る。洋子ボクは急いで建物から走って逃げだす。その四秒後――


「うきゃああああああああああ!」


 さっきまで洋子ボクがいたビルは、パンツァーゴーストの主砲を受けて爆発した。追撃とばかりに弾丸が建物周辺に雨のように叩き込まれる。

 ドローンが動く洋子ボクを捕らえたのだろう。先ほどとは若干遠巻きに洋子ボクを観察し始める。

 これがパンツァーゴースト戦のパターン。

 ドローンで相手を捕捉。相手を建物ごと砲撃し、殲滅する。

 ハンターが何人いようと関係ない。それ全てを滅ぼせるだけの兵力と火力がある。圧倒的な蹂躙。兵器の姿に偽りなき暴力。


「うん、流石だ。<AoDゲーム>の時と変わらないね」


 その動きは間違いなくAcademy of the Deadの動きと変わらなかった。

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