ボクは動画に出た?
北区警察署奪還作戦。初日昼パート、終了――
ハンター委員会の目測では初日から三日目ぐらいまでは基地での防衛に徹し、大橋のゾンビが減ってきた頃合いを見計らって一気に攻めるつもりだった。
「なんだと!? バリケード部分を占拠しただと!」
「百匹近くのゾンビを退けたと言うのか!?」
「予定変更! 戦線を進めるんだ! 夜は橋のバリケードを軸とした防衛戦に移れ!」
「夜が来るまでに各方面に通達! 急げ!」
ところが
「大慌てだったね。いやあ、人を統率する立場って大変だなー」
「一応言いますけど、ヨーコ先輩もこのクランを統率する立場ですからね」
休憩用に割り当てられた四人用のテントの中で、他人事のように呟く
「あははは。まあボクはほら、ゾンビをどう攻めるかしか興味ないし」
「確かにバス停の君に事務とか大規模な指揮とか兵站管理とか無理そうデスネ。いや、出来そうデスけどすぐに投げ出して前線に行きかねまセン」
「ソンナコトナイヨー」
「じむ、って計算する人のことですよね。だったら音子やります。二桁の割り算得意です」
「うんうん。その気持ちだけでうれしいよ」
音子ちゃんの言葉にほっこりしながら、スマホを見る
画面に映っているのは、ニュースの動画。今日の
『本日より始まった北区のゾンビ掃討のニュースです!
現在、三七川橋入り口を占拠するゾンビを退けたとハンター委員会から発表されました。橋中央部にはまだ多くのゾンビがいますが、それらを全部排除すれば北区に進行可能との事です!』
『予想より早い侵攻ですね。専門家の意見では入り口に設置されたバリケードの強固さから、三日は足踏みすると言われていましたが』
『はい。なんでもハンタークランが奮闘したとの事です。その名前は……えーと【バス停・オブ・ザ・デッド】? ハンター委員会の名簿によると、僅か四名のクランのようです』
『【バス停・オブ・ザ・デッド】? 聞いたことありませんね。【ナンバーズ】ではないのですか?』
「なんでも【バス停・オブ・ザ・デッド】は戌岩村に
『眉唾モノですね。あの多彩な毒を持つナナホシを撃退したなどありえません。一部のハンターが意図的に情報を操作しようとしているのを感じます。そもそもハンターと言うのは――』
『あ、今からハンター達が三七川橋入り口に向かうようです! あの、現在の心境などを――』
橋のゾンビを駆逐した
ニュースの内容も様々だが、基本的には好意的な意見が多い。否定的、というよりは信じられないと言った感じか。これもまあ当然だろう。たった四名のハンターが戦況を大きく変化させたなど、誰が信じようか。
「やー。これでボクらも有名人だね」
「今までの活躍を考えればこの反応はむしろ遅いぐらいです。ですが世間が私達を評価してくれるのは、素直に嬉しいですね」
「今のところは噂が先行して、真実を探っている段階デスネ。でもまあ、橋の中央でゾンビ五〇体を倒した、なんて見てなきゃ信じれるもんじゃないヨ」
「本当のことなのに、信じてもらえないんです?」
首をかしげる音子ちゃん。理不尽かもしれないけど、そう簡単に信じられないだろう。
ハンターは一夜で二〇から三〇体ほどゾンビを倒し、帰還する。だけどそれは、一度にそれだけの数を倒すのではない。数体ずつ戦い、ダメージとの兼ね合いを考慮して限界が近づいたら学園に戻る。それで大体そんな数だ。
一度に五〇体のゾンビに襲われたら、普通は対処しきれずに力尽きる。そしてゾンビの仲間入り。誰だってそう思うだろう。
つまり、五〇体を相手にしてそれを撃退したなどと言うのは、まずありえない。噂に尾ひれがついたか、誇張して喋ったか、ズルしたか。あるいは――真実か。
「そう、誰もが信じてもらえない事をやり遂げた! それがボクなのだ!」
えへん、と胸を張る。
「そう言えば聖女様は? <
「聖女サマなら『こんな狭くてぼろいテントになんかいられませんわ!』とか言って出てったヨ。朝には戻ってくるッテ」
「何その死亡フラグ。まあ、本当に危険な場所にはいかないだろうし」
「そうですね。とにかく私達はもう寝ましょう。……さすがに疲れました」
うつらうつらと頭が揺れる福子ちゃん。音子ちゃんは既にぐったりと寝入り、ミッチーさんも装備点検をしながら欠伸をしている。
「そうだね。明日も大変だし、ゆっくり寝よう」
用意されたキャンピングベッドに横になる。襲い掛かってくる睡魔に身を任せ――ようとした時に、気配を感じた。テントの外だ。テントの入り口で止まり、そこで何か喋っているような声が聞こえる。
(んー……? なんだろ?)
たまたま入り口で誰かと話しているだけかと思ったが、そんな感じではない。一人で喋り続けているような感じだ。気になったので体を起こし、入り口の布を開けて外を見る。
「はーい、皆さん! こちらがあのっ! 【バス停・オブ・ザ・デッド】が眠っているテントッス! 発足時から何かと噂になっていたあのクラン! 今回もまたまたやっちゃった人達ッス!
今回ファンタン
見ると、迷彩服にベレー帽と言った軍人スタイルっぽい女性が、スマホで自撮りしながら何か喋っていた。喋りながらも自撮り棒がぶれなかったり、かなり手慣れている。
あと声量も絶妙だ。はきはき喋っているけど、ベッドの布隔てればほぼ聞こえない程度の音量だ。まあ
「彼らの噂が本当なら【ナンバーズ】の生み出した伝説的記録を塗り替える可能性もあるッスよ! ファンタン放送局はこれから伝説を――」
「何やってんの、キミ?」
「あひゃあああああ!? あばばばばばば!」
声をかけた瞬間に飛び上がり、思いっきり距離を取る迷彩服ちゃん。……ふぁんたんよつや? 聞いたことない名前だ。
「あああああああ貴方は!? いいいいいいいいいいいぬづかようこしゃんッスか?!」
「へ? あ、うん。ボクは洋子だけど?」
「こっ、これはなんたること! 彼女達の偉業を気付かれずに記録しようとする目論見はここに潰えてしまったッス! 嗚呼、歴史の傍観者となるファンたんの計画はここに頓挫! かくなる上は密着取材に移行するッス!
唐突ですが犬塚さん! 視聴者たちに一言お願いするッス!」
「え? なにそれ? もしかしてこれ動画流れてるの? 生放送なの?」
「当然ッス! いつも情報はフレッシュに! それがファンタン四谷のポリシーッス!
あまりの生々しさにドン引きされることもありますが、そこはそれッス!」
あー、なんなんだろうこれ。とりあえずなんか言っておくか。
「あー。犬塚洋子です。どうも。これからもよろしく?」
「きょわああああああああ!? 犬塚さんの肉声ゲットッス! これが伝説の放送になろうとはこの時誰も予想すらしなかったッスよ! それでは次の配信で!
あ、犬塚さんはありがとうございます! それではまたッス!」
びしっ、とポーズを決めるとファンタン四谷さんはものすごい勢いで走り去っていった。ばびゅーん、と言った感じだ。
「えーと…………わーい、動画初出演だ?」
首を傾げ、
何がどうなのか、疲れた脳ではそれ以上思考することもできず、何がなんやらと思いながらテントの中に戻って横になった。
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