ボクはアーデルちゃんの名前を聞く
『
あとはゾンビを解体し、戦利品を獲るまでがハンターの務めなのだが……。
「つーかーれーたぁ……。ボク、一歩も動けない」
気を張った反動で、
「アーデルちゃん、ドロップ品全部あげる」
「……そういうわけにはいきませんわ。
あ、ドイツ語に戻ってる。そして喋り方も貴族っぽいヤツに戻っていた。
通常、ゾンビを倒して得られるモノは、ゾンビを倒すのに貢献したハンターに所有権がある。この場合『
パーティを組んでいたらその所有権がパーティメンバー全員にあるのだけど……。
「ほら。私と組もうなどとするからこうなるのよ。貴方に見合った方と
「あー。うん。アーデルちゃんは
あははー。と笑う
「………………ですわ」
「ん?」
「
「へー。福子ちゃんか。いい名前だね」
「っ!? ええ、ええ! カミラお姉様を倒す手伝いをしたお礼です! 貴方には、その名前で私を呼ぶことを許可しますわ!」
言って背を向ける福子ちゃん。コウモリの翼がピコピコ上下に揺れていた。……嬉しいのかな? まあ、無事目的も果たせたしね。
「ありがと、福子ちゃん。無事に回収できたんでしょ、お姉さんの武器とか」
「ええ。お
遺品――ゲーム的には1STキャラの装備だ。カミラゾンビが使っていた剣と、近接戦闘用の防具諸々。中遠距離タイプの眷属使役な福子ちゃんからすれば、あまり使わない装備類だろう。
(――と言うのは野暮なんだろうね。彼女にとって、これはそう言う事じゃないんだし)
効率を考えれば、カミラゾンビとの戦いは無駄な戦いだ。お金の概念がないこの『AoD』において、使えない武器はしまわれるだけの倉庫の肥し。売ったり装備強化の材料にもできないのだから。
だけど価値はある。少なくとも福子ちゃんにとっては。
あの喜びの涙が、それを如実に語っていた。
「うん。それがボクにとっての最大の報酬だ」
そのまま
………………………………。
……………………。
…………。
気が付くと、見慣れた天井だった。
「……あれ?」
「目を覚ましたようね、犬塚さん」
橘花学園保健室。そのベッドの上。声をかけるのは保健室の主、伊谷さん。
体の要所に包帯を巻かれた状態で、
「銃創五ヶ所。刺傷二ヶ所。ゾンビウィルスもかなり侵食していたわ。五日ほど寝込んでたけど、もう少し安静にした方がいいわね。
『
伊谷さんが指差す先には、ベッドで眠る福子ちゃん。彼女もカミラゾンビに剣で切られて、その場所に包帯を巻いている。
あー……あの後で気を失ったのか。そして福子ちゃんに保健室に運ばれた、と。
「後でお礼言っとかないとね」
「そうね。『
あー……そうか。
あの後気を失ったんだから、福子ちゃんしか『
「って、福子ちゃんは?」
「こっちで寝てるわよ」
ベットから半身を起し、問いかける
伊谷さんが指差したのは、
「感謝しなさいよ。彼女が貴方をここに連れてきたんだから。その後も必死に看病してくれて」
「やっぱり福子ちゃんは優しい子だね! 感謝感謝!」
「うるさいです……もう少し寝させてください、お姉様」
もぞもぞと動く福子ちゃん。頭を押さえながら、福子ちゃんが起き上がる。マスクを外している顔は初めて見るが、端正の取れた可愛い顔だ。牙の革マスクとは真逆の、人形のような顔。まどろみながら、数度瞬きした。
「…………ん、あれ?」
「おはよう福子ちゃん! 助けてくれてありがとう!」
「え…‥? そう……。おはようございます……。っ!?
ふ、感謝するのね。この『
「うんうん。感謝してる!」
「……卑怯です、犬塚さん。そんな笑顔で言うなんて」
? よくわからないけど布団をかぶって顔を隠す福子ちゃん。
なんか悪いことしたかな、
「あらあらまあまあ。いつの間に
「狩りの途中で知り合ったんだ。で、そこで『
お礼に『
福子ちゃんにお礼を言う
「そんなわけには――ふ、施しはいりません。
厨二モードに入って、報酬を拒否する福子ちゃん。
「そもそも貴方を看病したのは報酬をきっちり分配するためですわ。そうでなければこの私がこのような所に寝泊まりなどするわけがありません」
「そっか。ボクが治るまで傍にいてくれたんだね」
「そういうわけでは……っ! それでは私が……いいえ、何でもありませんわ!」
言ってそっぽを向く福子ちゃん。何か悪いことでも言ったかな?
こちらに目を合わせずに、メモを差し出す福子ちゃん。そこには少し丸みを帯びた文字でゾンビの素材がまとめられていた。真ん中で線を引いて、左右に
「とにかく、分配は此方に記載してあります! すでにこの学園の生徒会には話を通してありますので、後は犬塚さんが書類にサインすれば終わりです!
あと、レアアイテムと加工品に関しては保留してありますので――」
「あれ? ボクの分配が多くない?」
胡乱な頭でメモを見るけど、
「当然ですわ。与えたダメージや戦闘貢献度を考慮すればそれが妥当です」
「そんなことないよ! 一緒に戦ったんだから、報酬も平等じゃないと」
「そんな……そもそも、私は足手まといだったようですし……。むしろ迷惑だったんじゃないですか?」
「まさか! 一緒に戦えて楽しかったよ。出来るならこれからも一緒に戦えると嬉しいな!」
言って
だけどその手は、握られなかった。
「…………犬塚さん、ホント
「決意?」
「ええ、決意です。私、『
ゾンビハンターとして貴方を超えると、ここに宣言させていただきます!」
「りばぁーれ?」
「
「あー、えーと……要するに、何?」
「貴方に勝つまで、勝負を挑ませてもらいます!」
びしぃ、っと指差されてどうしたものかなー、って思いながらため息をつく。
「ところでお食事ですが、今は胃がまだ弱っていますからスープ類がよろしいですわね。固形物は様子を見ながらお作りしますので、しばらくは安静になさってくださいね!」
それはそれとして、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます