第38話 門奈計磨-2 ゾルビデムへの希望
***
こっちの世界は夜の色が少し違う。どんなに映像が進化しても、自然の色や景色には敵わない。でも、純粋培養の世界がもしあるのなら、誰もが一斉に走るだろう。
ブラインドが挙げられた向こうは、かつて興味を示した大きな建物が二つ、しかし、異様だ。分かった。窓が一切ないのである。建物特許法や日照権を考えても、異様だった。
「こっちから連絡通路に行ける」
門奈計磨は、白衣を着こむと、会議室のドアを開けた。直進すると、外階段に出る。ぴゅうと高層の風が吹き抜けた。
「外で繋がってるんですか」
「二重扉だからな。この建物は、明り取りも、換気も必要ないんだ」
――ますます嫌な感じを帯び始める。二重扉、で昔はまった
二重扉に貼りつく殺人鬼は「ウオオオ」としか言わず、銃を向けてしっしとやると「ウオオオオ」と去っていく。
「まさか、ここ、病院ですか」
「精神系と、……
聞いた覚えがない言葉に、暁月優利は首をひねった。門奈計磨は小さく息を吐くと「植物人間と言えば分かるか」と語り掛けて来る。
――植物人間……足が竦んだ。
『キャシーに逢いたいか』それがどうして、病院なのだろう。「どうした」と冷たいアスファルトの扉を開けた門奈が暁月優利を窺った。
「ゾルピデムという睡眠導入剤があるんだ。きみのように、常時覚醒して、お目目ぱっちりには縁がないが、その睡眠導入剤の研究を始めたのは、zuxiメンスだ」
――俺は、VR研究者だけど、キャッスルフロンティアKKの社員ではないよ。いつぞやの門奈計磨の言葉が過ぎる。
「夜勤かい?」通り過ぎる医師に軽く声掛けしながら、門奈は二重ドアに手を掛けた。
「ゾルピデムで、
網膜認証を済ませると、門奈はスタスタと真っ白の廊下を歩いた。モニターの音が凄い周波数を弾き出している。
「キャシーはそこだ。――とはいえ、驚くなよ。こっちの世界では、こいつは男だから」
銀の医療カプセルがずらりと並んでいた。みな、すうすうと寝ている。その、カプセルの右端に、「Cathie」と書いたネームプレートがあった。
「ゾルピデムを注入して、ややすると、無有事状態になる。そこから夢遊状態にトランスする。そのまま彼らはVRへと入り込む。しかし、キャシーは甚大な器官を撃たれ、脳の回路が傷ついてしまった。ジェシーがいたはずなんだが」
暁月優利はキャシーのそばに歩み寄った。たくさんの生命維持装置に繋がれ、キャシーは薄く唇を開けたまま、目を途中途中で泳がせている。
「――焦点が合っていない。トランス状態にもならない。ハッカーβは、この施設を排除したい団体だ。しかし、俺は、盟友の意志を継ぎ、キャッスルフロンティアKKのメンツと、ゴドレス計画を成功させる。――活きのいい感覚超越者が手に入った。希望は捨てない」
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