ED.No50



でも要注意!!


仲良し姉妹の唯一の欠点はーー


ズバリ!! オトコの好み!


これが被って、オトコを巡って血みどろの争いになり絶縁してしまう姉妹もいるとか!



てか、ほんとにオトコとカネで揉めた人間関係は本当に元に戻りませんので気をつけてください。



ー月刊女性自慢、特集記事。激モテ仲良し姉妹?! 最終ページより抜粋ー








………



 


 〜ヒロシマ市 東区 牛頭町


 高台の雪代邸、本邸、1F〜







「おっ、カニ缶じゃん!! 凄え、ぶちある!! 雪代、これほんとに持って帰ってええんか?」



 海原 善人は、思わず破顔した。





 繊毛すら書き込まれている蟹のラベル、1缶数千円はするはずの高級カニ缶が詰まっている戸棚を覗き込む。



「くすくす、ええ、海原さん、それ好きだものね」



 満面の笑みを浮かべる海原を、海原よりも嬉しそうに眺める女、雪代 長音が静かに口に手を当てながら笑う。



「まじかよ、鮫島の野郎の言う通り、雪代、お前超金持ちだったんだな…… カニ缶をまさか保存食として買いだめしてるご家庭だとはよ……」



 ごくり。


 欲丸出しの表情で海原は唾を飲み込む。


「まじかよ、これダンボール一箱あるぞ。どんな大人買いだよ」



 "ヨキヒト…… イマイチ貴方の裕福かどうかの判定がズレているような気がするような"



 頭の中に響くいつものマルスの小言を海原は無視する。


「こうなるとどうやって持って帰るのかを悩むな。一旦学校へ帰って警備チームの連中とまた来た方が良さそうだ」



 海原は立ち上がり、広い部屋を見回す。



「にしてもよ、すっげー家だな。修学旅行ん時に行った京都の有名な寺とか、屋敷みてえだ」


「ふふ、そんな事ないですよう。古いだけです」



 海原は畳張りの部屋から覗く広い庭を眺めながら雪代の言葉を聞き流す。



 いや、これ完全に修学旅行じゃん。


 白い砂が敷き詰められた庭は、そこだけ世界が終わる前の時間が静かに佇んでいるような。



「枯山水っつーのか? 綺麗だなー」


 海原は庭の軒下に腰掛ける。


 白い砂が規則的に詰められ、ひとつ、ふたつと苔むした岩が置いてある。



 "ヨキヒト、庭だけではありません。この屋敷は……その、なんというか。綺麗すぎる…… 怪物が侵入した痕跡もありません"



「金持ちの力か…… 恐ろしいな」



 "ヨキヒト、真面目に聞いてください。ここは何か……"


 マルスが言葉をいいよどむ。海原はぼけーと枯山水の調和を眺めて深く息を吐いた。



 雲ひとつない青空、夏空が頭の上に広がる。太陽の光で染め上げられた空を眺めているとどちらが上で、どちらが下なのかすら忘れてしまいそうだ。



「海原さん、私少し台所を探してきます! 少しそこでゆっくりして置いてくださいねー!」


「うーい。了解」



 とたた、雪代の足音が忙しなく遠ざかる。


「出掛けた後にいきなり家に忘れもんがあるって言われた時には面食らったが、まあ蟹缶もあるし、綺麗な庭も観れたし、悪くないな」


 海原は軒下から部屋を再び振り返る。



「日本庭園を備えた屋敷か…… あいつマジのお嬢だったんだな」



 海原は再度、この雪代邸の全容を眺めてため息をついた。


 海原にとっての家とはせいぜい1kの部屋だ。借り上げの社宅がちょうどそのサイズだった。


 だが、これは少し次元が違う。


 広さ、部屋の多さ、家から香る匂い。


 屋敷とはこういう家のことを表すのだろう。



「アイツの家って何してたんだ? こんなん相当あくどい事しねえと建てれねえよな……」



 海原が頬杖をつきながらぼやく。



「……お父さんもお母さんも人に言えないような仕事はしていない」



「うおっ?!」



 唐突に背後からかかる声。


 海原が慌てて振り返る。



「おお、ボス…… ビビったー…… いつからそこにいたんだ?」



「ハア…… 貴方が庭を眺めながらぶつぶつ言ってた頃から…… はい、コレ、お茶淹れてきたから」



「あ、どうも」


 別れて家探しをしていた継音が背後から現れる。いつ近付いてきたのか全く海原は気づかなかった。



 継音が片目にかかる前髪を直しながら海原へと向かって湯呑みを差し出す。



「あ、うまい……」



 とくり、とくり。


 水出しされているのか? 湯のみを掴むとひんやりと冷えている。


 そのまま喉を爽やかな風味が通り抜けた。


 何茶なんだろうか? 焙煎された深い茶葉の味、苦味はほとんどなく色は深い茶色をしている。


「烏龍茶?」



「なんだったかしら。うちでよく淹れていたお茶…… 緑茶ではなかったと思うの」



「ふーん。美味いな。初めて飲む味だ」



 とくり、とくり。


 気付けば湯のみは空になる。



 継音がいつのまにか海原のとなりに座っていた。黒いハイソックスに包まれた細い足を投げ出し、海原と同じように庭を眺める。




「……この庭、どう思う?」



「あ? どうって…… 良い庭だな。ずっと眺めてられる的な」



「そう……」



 継音が小さく呟く。


 雪代と違ってこの妹の考えている事はよくわからん。いや、冷静に考えてみれば姉の雪代 長音も何を考えているかあまりわからないか。



 俺は、この2人の、雪代達の事を本当はよく知らない。


 どんな場所で生まれ、どのように育ち、何をして生きてきたのか。


 この世界が終わった後の彼女達の事しか知らない。



 海原は庭を眺めていた目線をとなりに、拳一つぶんのスペースを空けて座る継音へと移した。




「わたしは昔、この庭が嫌いだった。……ううん、違う。初めは好きだった庭が、途中から嫌いになった」



「……良い庭だけどな」



「……どんなに良い庭も、1人で眺め続けるのはつまらない。この変わらない庭を1人で眺めてると、自分がひとりぼっちのまま変わらない気になってしまう」



「……ずっと1人でこれを眺めてたのか?」



「ううん、違う…… 昔は、この庭を一緒に眺めてくれる人がいた。姉さんが淹れてくれたお茶を飲みながら、唯や姉さんとおしゃべりしながら眺める庭は好きだった」



 ここではない遠いどこかを見つめる瞳で、継音は語る。



「……また一緒に眺めりゃいい。後で雪代が戻って来たら少しゆっくりしていけよ、ボス、んでまたお前らの妹もきっと生きてる。そのうち会えるさ」



「……そう。海原さん、今更だけど、ありがとう。わたし達を助けてくれて。姉さんと仲直り出来たのも、その……貴方がいてくれたおかげの部分もないこともない……」



「なんだよ、それ。まあ、どういたしまして。そりゃそうと、雪代の姉貴の方はまだ帰ってこないのか?」


 海原は湯のみを拾って立ち上がろうとーー



「待って、海原さん」



「ん?」



「継音。私の名前は継音。ボスもリーダーもやめてほしい。その…… もう、探索チームもなくなったのだし」



 継音が顔を伏せながら小さく呟く。


 海原は湯のみを握ったまま、空いた手で頭を掻いた。



「了解、継音さん」


「さん付けは、そのやめて欲しい」



「えー、つってもなあ…… なんかボーー いや、継音は継音さんって感じなんだよなー」



「それだと一姫と同じになる…… ダメですか? 海原さん」



 消え入りそうな声で継音が言葉をボソボソも語る。



 どういう風の吹きまわしだろうか、俺は雪代 継音に嫌われていたはずなのに。



「あー…… うん、わかったよ、継音。継音…… ああ、いい名前だな、なんていうか、おおらかで優しい気がする」



「……そう。ありがとう」



 継音の耳が赤くなっていることに海原は気付かない。黒い濡れ羽の髪の毛は顔を隠す程度には長かったから。




「ねえ、海原さん」



「へい」



 継音が海原を覗き込むように見上げる。


 上目遣いのその視線、小動物が始めて自分よりも大きい生き物と出会った時のような。


 未知への恐れと、値踏み、そして、期待が入り混じった、そんな瞳。



「貴方と眺めるこの庭は、あまり悪くない。今日、それが分かった」



 くすり。


 継音が笑う。未だ幼い、完成されていない美。それでもその笑いは姉と同じ、男を捕らえ離さない。


 妖艶。



 海原の反応は変わらない。海原はわきまえている、自分の分を。


 だからこそ。その笑みに獣性を刺激されながらも、それを無視することが出来る。


 ニヤリ、海原が笑う。



「そりゃ良かった。俺で良けりゃあいつでも茶飲みに付き合うさ。……継音、少し休んどいてくれ。アンタの姉ちゃん探してくる」



「うん、いってらっしゃい」




 海原は今度こそ、その場を後にする。


 継音の笑みが長音とかぶることに、少しの違和感を覚えつつ。


 それがなんらかの警告であることを、海原は勿論、その中に棲み、身体のホルモン反応などを司るマルスでさえ気付かない。




 












「……姉妹の好みって似るのかな……」



 そのつぶやきにも、海原達は気づかなかった。














 エンディング開示条件


 雪代 継音の生存


 雪代 継音の好感度が一定以上


 雪代長音の好感度が一定以上


 雪代 長音と雪代 継音が和解する。


 雪代 唯と出会わない




 ED NO 50


『雪代の好み』


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