ED NO 85 23 32

 

 ……

 …



 ヒロシマ市 ヒロシマ駅近郊。


 午前11時頃





「ホット・アイアンズ」




 最後の化け物、カマキリみてえな愉快な顔した化け物が倒れる。



 腹の真下、そいつが立っている場所は、ヒロシマ市中を血管みたいに広がる路面電車の線路の上。



 線路を溶かし、それを尖らせ、そのままソイツの腹にぶち込んだ。



 青いあぶくを拭きながら、怪物が痙攣し、動きを止めた。



「おつかれ、田井中。流石だな」



 少し離れた先、もう1匹のカマキリの化け物の死骸の上から声が届いた。




「まあな。ここ最近戦ってた化け物と比べりゃザコだ、ザコ。竹田、お前も回復は順調みてえだな」



「まあ、な。実際、春野はすごいよ。あいついなけりゃ死んでたわ、俺」



 竹田が野球帽のツバをいじりながら、化け物の死骸から降りた。青い血がついた金属バット肩に引っ掛け歩き出す。



「身体中の関節という関節が逆にねじ曲がってたんだよな? 頑丈で良かったな」



「田井中、お前だって腹とか肩とか木の根で貫かれてたじゃん。よく生きてたよ、ほんと」



 竹田の言葉に俺は一瞬詰まる。




「違う」



「ん?」




「俺は生き残ったんじゃない。生かされたんだ。樹原はワザと俺にとどめを刺さなかった。俺は海原のオッさんを縫い付ける為の囮にされたんだ」



 思い出しただけでもハラワタがにえくりかえる。通用しなかったどころか、足まで引っ張ったその情けなさに。




「俺は結局、あの野郎に、キハラに一度も勝てなかった。オッさんがいなかったら俺はもう死んでいた」



 無力さはふとした時に現れる。



 恐怖を乗り越えても、挑んでも、なお届かなかったあの大敵。




 もう二度とキハラを乗り越える事は出来ない。俺が意識を失っている間に全ての決着はついてしまっていたから。




 ぼす。



 いて。



 気づくと竹田が俺の肩を叩いていた。野球帽を目深にかぶり、小さく息を吐いてそれから口を開いた。



「それでもな、誠。俺はお前にまた会えて嬉しかったよ。お前が生きてて良かった。もうさ、俺たちまだガキなんだからそれでいいんじゃね?」




 竹田が、いや、翼が俺の名前を呼ぶ。



 まだガキだった頃と同じように、俺の名前を翼が呼んだ。




「……俺らはガキじゃ……」



「ガキだよ、ガキ。誠、俺たち、少し勘違いしてたんだよ。急にいろんなことが変わって、頼られて、全部じゃないけど少しいい気になってたんだ。なんか、急に大人よりスゲー存在になったって勘違いしてんだよ、俺もお前も」



 翼が鼻を掻きながら俺を見る。




「そんなガキの俺らが樹原せんせ…… いや、キハラみたいな大人に騙されたり、負けたりすんのは別に悪いことじゃねーんじゃねえの? 大事なのはこれからどうするかだよ。誠、次は俺たちで勝とうぜ」



 翼が表情の乏しい顔で小さく笑う。



 突き出された拳、俺は少し躊躇った後、同じように拳を突き出す。



 樹原に奪われ、海原善人が取り戻してくれた赤い腕を突き出した。




「少なくともさ、誠。あの人達は、海原さん達は俺らのことを子供扱いしてくれるじゃん。それでいーんだよ、きっと。あの人達は俺らがガキでいる事をまだ許してくれてるからな」



 ハッとした。



 こいつ、たまに良い事言うんだな。


 俺は少し、にやける唇に力を入れて平静を取り戻す。



 ほんの少し、胸のわだかまりが溶ける。



 まだたまに夢を見る。



 影山の死に顔や、樹原の冷たい顔、置いて行ったウェンフィルバーナの顔。



 俺は、自分の手がもっと大きなものだと勘違いしていたのかもしれない。




 自分に救えるものなんか俺が思ったよりももっと少なくちっぽけなものだった。



 でも大事なのはその事にいじけることじゃない。




「もっと、強くなる」



 認めて今よりも成長しようとする事なんじゃないか。




 樹原に奪われたものはもう返って来ない。それでもまだちっぽけな俺の手のひらには残ってるもんがある。




「誠、焦らず一緒に大人になろーぜ。世界はめちゃくちゃになったけど、俺らはまだいきてんだからさ」


「……ああ、そうだな。翼」



 俺らは笑い合う。


 今よりももっとガキだった頃、夏休みに駄菓子屋へ向かう道で遊びながら笑いあった頃のように。



 暑い。夏の日差しが照りつける。



 続く道路に陽炎が登る。





「おおーい!! 田井中くーん! 竹田くーん!! こっちも終わったよー」



「炸裂、俺のギャラクティカバースト」



「もういや、死ぬ。マジで死ぬって」



 わらわらと、俺の手のひらに残った大事なものが集まってくる。



 警備チーム、なにかを守ろうと足掻くガキの集団、俺はそのガキ山の大将だ。



「上等じゃねーか。今はそれでいいさ。でもいずれ、アンタよりも凄え大人になってやる」



「誠、なんか言った?」




 なんでもねーよ。



 そのつぶやきは俺にしか聞こえないように小さく、それでも言葉に出す。




 海原、いつかアンタのように当たり前の大人に俺はなる。



 だからそれまで



「見てろよ、海原さん」



 手のひらを太陽に透かす。



 赤い血で出来た腕が、陽の光に溶けた。



 たしかに感じる血の感覚、陽の熱。



 俺は仲間とともに廃墟を進み始めた。



 この終わった世界で、俺たちは大人になる為に生きていく。



 このかけがえのない手のひらに残った奴らと共に。










 エンディング開示条件



 最終決戦時を終えたのち、警備チームが半分以上生き残る。


 竹田 翼の生存。


 田井中 誠が暴走せずに生存する。




 ED NO 85 『警備チーム』















 ……

 …






「周辺の雑魚の掃除は粗方終わったな。翼、今日はこの辺りを探してみようぜ」



「そだな、でもあんな図体のでかい化け物隠れるとこなんてないはずなんだけどな」




 俺たち警備チームはある化け物を探している。



 あの夜仕留め損ねた、樹原に勝るとも劣らない化け物。



 首のない巨人。海原善人と樹原 勇気の生存競争の最中、突如姿を消した化け物。




 一体アイツはどこへ消えた?








 エンディング開示条件



 夏山 凛音、すなわち首のない巨人にとどめを刺さずに樹原 勇気との決着を付ける



 ED NO 23 『不死、未だ死なず』






 ……

 …



 〜ヒロシマ市


 北ヒロシマ町〜






 それはその地域に古くから根ざす怪物だった。



 時代によって在り方を変える、神と呼ばれ人に敬愛されたこともあれば、妖と呼ばれ人に忌み嫌われた時代もあった。



 お伽話の存在、世界が完全に人のモノになったと同時に姿を消し、そして世界が終わった事により再び姿を現したモノ。




「目標……沈黙を確認…… 」



 蛇の神、人など一飲み出来そうな大蛇が地に伏す。



 神と呼ばれ、妖と恐れられた生き物は今ここに滅んだ。



 それよりもさらに強大な化け物、つまりわたしの手によって。



「オペレーション・ノスタルジア、進捗率23パーセント…… 作戦、続行」



 黒く濡れた合羽を着込んだような風体。



 その両腕は巨大な肉厚の刃と化し、蛇の神の身体を刻み込む。



 怪しく光る赤い双眸、無機質な面、ガスマスク。



 それは堕ちた英雄、奈落から帰還し切れなかった世界を救えなかった主人公の末路。



 最愛の姉を、最愛の友を、その手に握りしめていたものを全て失くした敗北者。



 使命を完遂することはなく、人と化け物の境目を彷徨い続ける哀れな存在。



 わたしは、何をしていのだろう。わたしは誰なのだろう、




 わたしは、わたしは。



 時が経つたびに思い出は褪せる。



 姉を失った時の途方もない喪失感、友が堕ちた時の寂寥感。



 それらの悲劇の思い出すら、今はもう遠い。



 わたしのやったことは全て間に合わなかった。



 お姉ちゃんが救おうとした世界は終わり、シエラチームの皆も死んだ。



 負けた、終わりを止めることはできなかった。



 わたしのして来たことは全て無駄だった。




 全て……?




「違……う」



 薄れていく記憶の中、熱を持った思い出、記憶。



 ガスマスクの内側、唇が少し熱くなる。


 男の唇を1人しか知らない唇が。



「それでも、貴女を貴方に託せた……」



 それは善性の光。



 人が人のために我を投げ出す美しさ、強さ。



 わたしはそれを見た、わたしはそれと出会えた。わたしはそれに託した。



 大丈夫、まだいける。



 彼が、あの子と共にある限り。



「わたしはまだ、負けていない……」



 頭の中、進化し変化した身体が、あの子が強くしてくれたら身体が次の怪物の場所を指し示す。



 そうだ、まだわたしにはやるべきことがある。



 プランB、オペレーション・ノスタルジア。



 奈落の拡大を止めれず、中身が漏れ出した場合、地上の怪物種を殲滅する。



 それがわたしの最期の仕事。




「マルス、ヨキヒト」




 あなた達が生きる限り、わたしの負けはない。


 わたしは滅ばない。




 重たい身体を引きずり、頭の中のセンサーが指し示す方へ。


 次の怪物の元へ。



 これが、わたし、アリサ・アシュフィールドのやるべき事。



 いいわ、やってやる。



 わたしはわたしの義務を果たす。シエラチームの皆がやり残したことを。


 わたしが諦めない限り、彼らもまた負けない。



 合衆国は、チームは、わたしは




「まだ、生きている……」



 わたしは怪物の死骸に口を近づける。



 マルスが強くしてくれたこの朽ちゆく身体を少しでも保たせるため、青い血を啜る。





 たとえ化け物にこの身を堕とそうと、この身体、魂が朽ちるまでわたしは戦う。




 きっと、わたしはこれから更に強くなる。殺して殺して殺してレベルアップしていく。




 そしていつか必ず人ではなくなるのだろう。



 そのことについて不思議と恐怖はない。



 だって約束していたから。






「いつか、わたしを殺しに来てね」





 そのいつかを夢見て、わたしは怪物を貪り始めた。



 オペレーション・ノスタルジア、順調に進行中。












 エンディング開示条件



 アリサ・アシュフィールドからM-66を引き継ぐ。


 アリサ・アシュフィールドがいも虫の化け物、もしくは樹原 勇気と出会わない。


 アリサ・アシュフィールドとの会話の中で、彼女の関心を引く。




 ED NO 32 『作戦続行』

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