エピローグ
帝国側、ラインハルト王国側、両方の砦が壊れた旧ブルクファルト領では、新たに急ピッチでの砦の建設が進められていた。
より強固な物が望まれ、幾つもの職人の案が議論されたが、最終的に採用されたのは、アイとリーンの共同案であった。
アイは前世の知識をフルに生かした城の石垣をモデルとした砦を提案。
今までにも似たような石垣はあったものの、乱雑に積まれただけのもの。
それをアイは、正確に寸法し、岩を一つ一つ削る作業を加えた。
時間がかかりすぎると反対されるも、そこを覆したのがリーンの案。
その場で石垣を加工し建設するわけではなく、国内各地で、同じ寸法に加工し終えたものを運ばせるという手段により、旧ブルクファルト領への金銭面の軽減、更には各領地は働き手を確保することで領民からの信頼を得ることとなる。
三年はかかると思われた砦の建設も、一年足らずで終わらせたのであった。
余談であるが、旧ブルクファルトに出来た新しい砦の傍には、戦争で活躍した木馬を模した石像が作られており、誰のイタズラかいつの間にか木馬の上にはリーンの石像が乗せられ、観光名所になっていた。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
それから三年の時が経過する。
十五歳となったリーンが結婚出来る年齢まであと一年と残されていたのだが、王都、旧ブルクファルト、ザッツバード、スタンバーグとラインハルト王国の各地を忙しなく移動しており、休む暇がないほどであった。
三十二歳となったアイは、里帰りと称してスタンバーグ領へと戻って来ており、屋敷の庭に置かれた白樺の椅子に腰を降ろして、ラムレッダ、ジェシカと共にハーブティーを楽しんでいた。
「大きくなりましたね、お腹」
「ええ。出産にまでは戻ると言っていたのだけれども、今、何処で何しているやら」
アイは愛おしそうな目を向けながら、自分の張ったお腹を優しくさする。
アイは妊娠していた。
父親は、勿論リーンではあるが、結婚はまだである。
婚前での妊娠に懐疑的な目を向けてくる人々もいるが、これは二人で決めた事。
結婚したからといって、子供を確実に授かるとは限らない。アイが高齢になる前にとの配慮でもあり、今後二人目、三人目を考えると、一人目は少しでも早くとの考えであった。
それでも妊娠するのに三年を要した。
「やっぱり不安だわ」
「大丈夫ですよ。ジェシーやラムレッダ様がついています。アイ様は元気なお子様が生まれるように専念してください」
楽しみで仕方ない様子のジェシカは、いつものようにアイに抱きつく勢いであったが、それをラムレッダが咄嗟に襟首を掴んで止める。
「リーン様がおられたら、アイ様も安心なさるのに」
「ほんと、何処をほっつき歩いているのやら」
呆れるようにアイは溜め息を吐いた。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
リーンが駆けつけたのは、出産予定の日ギリギリであった。
アイの為に屋敷に泊まっていたラムレッダとジェシカ、そして仕事で滞在していたゼファリーの元に、アイの陣痛が始まったとの知らせが届いたのは、その日の夜であった。
「アイ様、入りますよ! 大丈夫ですか!?」
ラムレッダとジェシカ、そしてゼファリーは急いでリーンとアイの寝室を訪れた。
「な、ちょ、待て!」
三人共、アイの子供が生まれる喜びに焦っていたのだろうか、寝室の中から聞こえてくるリーンの返事を待たずに扉を開いてしまう。
「……」
「……」
「……」
三人は入り口で思わず固まる。
部屋にはうめき声をあげているアイと、今朝まで部屋には無かった三角木馬の上に下着一枚で乗るリーンの姿があった。
死んだ魚のような目になった三人と、後から駆けつけたお手伝いの女性たちは、一言も発すること無く、陣痛で苦しむアイに近づいて、そそくさと他の部屋へと移動させていく。
「おーい、誰か降ろしてぇ……」
寝室に一人残されたリーンは、翌朝元気な男の子が生まれるまでの間、立ち会うことも出来ずにさめざめと泣いていたとさ。
私の婚約者が変態紳士で困ります!~変態を取り除く為、伯爵令嬢は奮闘する~ 怪じーん @kaijiin
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