第663話 六芒星板

 カツーン! カツーン!


 甲高い足音を響かせ、猟奇的な笑みを浮かべながらエラは通路の奥から現れた。


 兵士たちが突然倒れた原因は、やはりこいつだろうか?


 しかし、兵士たちが倒れた時点でエラは通路の奥にいた。


 プラズマボールならともかく、電撃で倒すには距離がありすぎる。


 そもそも、この兵士たちは生きているのか? 死んでいるのか?


 やがてエラは、倒れている三人の兵士のかたわらまで来て立ち止まった。


 しばらくの間、値踏みするような視線で男たちを見回す。


 そして、三人の中から一人を選ぶと襟首を掴んで引きずり起こした。


 えらい怪力だな。


 僕もこいつに引きずり回されたが、電撃能力無しでもこいつかなり強いぞ。


『おい! 起きろ』


 兵士の身体を揺さぶるが、目を覚まさない。


 この様子から見て、兵士は気を失っているだけで生きているようだ。


『起きないか。ならば』


 電撃を使うのか? と、思っていたら……


「おお!」「わわ!」「やだ!」


 映像を見ていたミールとキラ、ミクがどよめく。


「なんて破廉恥はれんちな」「これは、逆セクハラでは?」

 

 芽依ちゃんと橋本晶は嫌悪感をあらわに。


 何が起きているのかというと、エラは兵士を抱きしめてキスをしているのだ。


「ええのう。わしもやってほしいのう」


 ジジイは羨ましそうに映像を見つめている。


『ふむ。私のキスでも目覚めぬか。カイト・キタムラの時は、目覚めたが』


 う! ここで、それを言うなあ!


「なんじゃ若造。おまえ、あの姉ちゃんにキスしてもらった事があるのか。ええのう。顔のいい男は」

「うるさい!! あれは、僕にとってトラウマなんだ。だいたい、あんなおばさんにキスされて嬉しいわけないだろう」

「嬉しくないだと? 贅沢な奴じゃのう。バチが当たるぞ」


 バチが当たった方がマシだ!


「なんと! 隊長も、あの女から逆セクハラされていたのですか! 許せません! 次に会ったら、叩き切ってやります」

「橋本君。それをやったのはエラNo.5だよ。他のエラは関係ないから」


『少年兵!』


 エラは、いっこうに目を覚まさない兵士から手を放すと、少年兵を呼びつけた。


 五人の少年兵がワラワラと集まってくると、エラは倒れている兵士たちを指さす。


『こいつらの持ち物を調べろ。終わったら、縛り上げておけ』

『はい』


 少年兵たちは、倒れている青年兵の持ち物を手分けして確認していく。


 確認の終わった兵士から縛り上げていった。


 しかし、これはいったいどういう状況だ?


 第七層の帝国軍が二つに分かれて対立しているのは理解できたが、何が原因だ?


 エラは、どうやら少年兵側に付いているようだが……


『アレンスキー大尉』


 別の通路から、五人ほどの少年兵たちが現れる。


『奴らが、突然全員倒れてしまいました』


 どうやら、他の場所でも戦っていたようだ。


『そうか。で、そいつらはどうした?』

『あの……』


 少年兵は恐る恐る答える。やはり、エラが怖いのだな……


『念のため、全員頭を撃ち抜いて……』

『殺したのか?』


 少年兵は、一瞬ビクっと震える。


『い……いけなかったのでしょうか?』

『いや、かまわん。ただ、死体から持ち物は回収したか?』

『はい。武器弾薬、食料。それと、こんな物がありました』


 少年兵の一人が、ポケットから何かを取り出した。


 それは一片十センチほどの、透明な六芒星形の板。


 材質はガラスかアクリルか、はたまた水晶か分からないが、透明なその六芒星板の真ん中には直径二センチほどの丸い穴がある。


 いったいなんだろう?


「はて? どこかで見たような」


 ジジイがそれを見て首を捻っている。


「あの板に見覚えがあるのか?」

「あることはあるが、思い出せぬ。まあ、思い出せないという事は、たいして重要ではないのじゃろう」


 本当に重要ではないのか?


 こういう場合、後になってから重要な物と分かるパターンがあまりにも多いような……


 とは言え、ジジイに『無理に思い出せ』などと言ったら高くつきそうだな。


 まあ、エラたちの様子を見ていればそのうち分かるだろう。

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