第614話 ジジイに借りを作ってしまうとは……

 橋本晶を連れて傾斜路内に駆け込んだ僕たちは、催涙剤が入って来ないように大急ぎで扉を閉じた。


 扉を閉じて振り向いた僕たちは、そこで展開されている光景を見てしばし唖然あぜんとなる。


 何をやっているのだ? こいつら……


「きゃー! いやー!」「このエロジジイ!」


「ええチチしとるのお。ねえちゃん」


 そこで起きていたのは、二人の若い女とジジイとの戦い……いや、これを『戦い』と言っていいのだろうか?


 とにかく……


「ジジイ! 何をやっている!」


 ジジイが一瞬だけ、僕の方を振り向く。


「おお! 若造、やっと来たか。わしに感謝するがよいぞ」


 そう言っているジジイに、女の一人がナイフで切りつけようとするが、ひらりと避けられる。


「いやああ! 変態!」


 いつの間にかジジイは女の腰にしがみついていた。


 女は持っていたナイフを落とす。


 いったいこれは、どういう状況なんだ?


「北村さん。あれを」 


 芽依ちゃんの指さす先に、ロケット砲が転がっていた。


「RPG7です。恐らく彼女たちは、伏兵なのでしょう。私たちが第二層を制圧して安心しているところを見計らい、ここから狙い撃ちしようとしていたと思われます」

「なるほど。それは分かったが、なぜ彼女たちはあんな格好をしているのだろう?」


 どんな格好かと言うと、ミールの分身体が戦闘モードになった時に着けている、胸と腰だけをかろうじて覆っている本当に防御効果があるのか疑わしい鎧。


 つまりビキニアーマーだ。


 なんでこんな裸同然の格好をしているのだ?


「おそらく、北村さんを悩殺しようとしていたのでしょう」

「悩殺?」


 見くびられたものだな。ミールの分身体に見慣れてしまった僕が、この程度で悩殺されるわけないだろう。


 たぶん悩殺されないと思う。


 悩殺されないんじゃないかな?


 まあ、ちっと覚悟しておこう。


「さっき私たちは、扉の前で油断していました。あそこを狙われたらアウトでしたが、その前にルスラン・クラスノフ博士が彼女たちを見つけて、このような状態になったのかと思われますね」


 くそ! ジジイに借りを作ってしまうとは……


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