第603話 裏口
「きょほほほほほ!」
ジジイの勝ち誇った笑い声が、小屋中に響きわたった。
どちくしょう!
いったい何で、こんな事に?
リトル東京は、なんだってこんな奴を受け入れるんだ?
「北村さん。どうやら、リトル東京では以前からルスラン・クラスノフ博士を迎え入れようとしていたようです。私たちが立ち去った後、アーテミスの町に捜索隊まで出していたようですよ」
芽依ちゃんはジジイに聞かれないように、翻訳ディバイスを切って話しかけてきた。
「捜索隊? どういう事?」
「レム神と戦うためには、博士の知識はかなり重要な事は確かです。ですから、リトル東京としては、なんとしても博士に来てほしかったようです」
なんてこった。確かにジジイの知識は貴重だ。しかし……
「こんな奴を迎え入れたら、リトル東京中の女性が迷惑するぞ」
「そこは、なんとかすると言っておりますが……」
なんとかって、どうすんだよ?
「それとですね。丁重に扱うのはヘリが出発してからであって、それまでは監禁しておいてもよろしいと書いてあります」
当然だな。
僕は、笑い声を上げているジジイの近くまで行った。
「リトル東京では、あんたを受け入れる事に決定した」
「そのようじゃな。さあ、わしを丁重に扱うがよい。手始めに、ロボ娘にわしの世話を……」
「ただし!」
ジジイの世迷い事を、僕は断固たる口調で遮る。
「リトル東京行きのヘリに乗り込むまでは、監禁させてもらう」
「なんじゃと?」
「どこで監禁するかはこれから決めるが、監禁場所を無断で抜け出したりするなよ。もし抜け出した場合、一応形ばかりの捜索はするが見つけるつもりは全くない。適当なところで捜索を切り上げて『博士は行方不明になりました』と報告して置き去りにするから、そのつもりで」
「おまえ、わしが逃げ出しやすいように、監禁場所の鍵をわざと開けとくとかする気じゃろ?」
「さあ? わざと鍵を開けとくなんて事はないが、僕はうっかり者だからな。うっかり、鍵をかけ忘れるかもしれないな」
「まてまて。もう一つ良い提案があるぞ」
「聞く耳持たん。監禁場所が決まり次第、ただちにそこへ行ってもらおう」
「よいのかな。そのような巨大な口を叩いて」
ジジイは不敵な笑みを浮かべた。
どうせはったりだと思うが……
「僕が大きな口を叩いたら、どうだというのだ? さっき僕が『見つけるつもりは全くない』と言ったことを、問題発言だとか言ってリトル東京にチクるとでも? いっこうにかまわんぞ」
「そんな事はせん。それより、おまえはこれから地下施設に攻め込むのだろう。このままだと、大苦戦するぞ」
「大苦戦? 何を言っている? 地下施設には、もうほとんど戦力は残っていないはずだ」
海岸線で敵主力を釘付けにした時点で、地下施設にいる敵は、第七層にいるエラ・アレンスキー率いる一個小隊の他、第六層にカルル・エステス率いる一個小隊。そして、第一層の入り口近辺にマルガリータ姫率いる二個小隊がいるだけだった。
すでにマルガリータ姫の二個小隊は殲滅済み。
後は、第六層を守るカルル・エステスの部隊を突破して、エラ・アレンスキーを倒せば終わりだ。
この時にミクを拉致されないように守り切る必要があるが、苦戦する要素などない。
「本当に、そう思っているのか?」
「何が言いたい?」
「おまえは、帝国軍を海岸線に釘付けにしたと思っているようだが、すでに地下施設に入り込んでいるかもしれんぞ」
「何を言っている。海岸線から地下施設入り口へ続く道は、艦砲射撃で潰してある」
「地下施設への入り口が、一つしかないとでも思っているのか?」
なに?
「おまえは村で、地下施設の三次元図を見ていたな。わしもあの時あの図を見たが、第三層と第六層から外へ延びている地下通路が表示されていなかったぞ」
「なんだってえ!?」
裏口があるのか? いや、当然その可能性は考えるべきだったが、アーリャさんからもらったデータにはなかったので考えてもいなかった。
「まあ、帝国軍が裏口を見つけていればの話じゃがな。もし、見つけていれば今頃……」
ドローンを飛ばして捜索すると、ほどなくして裏口が見つかる。
「こんなところに……」
山の中腹付近に開いていた穴の中に、帝国軍の隊列が続々と入っていく様子がドローンから送られてくる映像に映っていた。
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