第547話 人を殺すという事は……

「装着」


 ロボットスーツを装着すると、僕は甲板へと進みながら通信機でミールを呼び出した。


「ミール。ジジイの分身体は消えた。今からそっちへ戻るから、捕虜の分身体を作っておいてくれ」

『え? 捕虜の分身体なら、もう作りましたよ』

「そっか、早いな」

『だって、お爺さんの分身体なんて、十分前に消えているし……』

「え?」


 十分前?


 ええっと、分身体が消えてから、トイレを済ませてロボットスーツを装着したわけだが、十分も経っていたかな?


 まあ、いいか。どっちかの勘違いだろう。


 甲板に出ると、ミクがまだ落書き女に落書きをしていた。


「ミク、ほどほどにしておけよ」


 ミクがこっちを振り向く。


「お兄ちゃん。面白い事が分かったよ」

「なんだ?」


 ミクは落書き女を指さす。


「こいつ。デポーラ・モロゾフの従姉妹いとこだったよ」

「デポーラ? 誰だっけ?」

「もお! お兄ちゃんてば、長い名前覚えるの苦手ね。ほら、ロータスの町で、あたしとミールちゃんが捕まえた女盗賊」


 思い出した。


「賞金金貨百枚の女か。という事は、砦にいるこいつの父親は……」

「デポーラのお兄さんだって」


 ろくな一家じゃないな。



 そのまま僕は、《海龍》から飛び立つ。


 ミールたちのところへ戻ると、すでにダニたち捕虜の分身体への尋問を行っていた。


「カイトさん。レムと接続されていたのは、こいつだけじゃありませんでした。キラに噛み殺されたこいつも部下たちも接続されていたようです。それと、今砦に立て籠もっているクラウジー・モロゾフという男も接続されています」


 クラウジー……長いからウジでいいや。


「というより、モロゾフの方が元凶だったようです」

「というと?」

「モロゾフ一家は、元々この周辺で盗賊をやっていたのです。十数人ほどの小規模な集団だったのですが、三年前に帝国軍の敗残兵を受け入れて、組織を大きくしたのです」


 そんな経緯いきさつがあったのか。


「その時に、モロゾフは敗残兵にブレインレターを使ったようです」

「なんだって? じゃあモロゾフの方が先に、レムに接続されていたというのか?」

「そのようです」


 予想はしていたが、レムはかなり大規模な情報網を惑星全土に構築しているようだ。


 モロゾフの盗賊団も、その一翼をになっていたという事か。


「カイトさん。どうします? モロゾフも生け捕りにしますか?」


 生け捕りは、リスクが大きいし時間がかかるな。


 よし!


 僕はアーニャの方を向いた。


「今から、艦隊に戻って戦闘態勢が整うのに、どのぐらいかかりますか?」


 アーニャは少し考えてから答える。


「攻撃目標は、砦でいいのよね?」

「ええ」

「それなら、一時間で十分よ」

「分かりました。今から、僕とミールとキラと芽依ちゃんで砦に殴り込みをかけます。その結果、モロゾフの生け捕りに成功しようがしまいが、一時間後には艦砲射撃で砦を殲滅して下さい」

「分かったわ」


 そして、一時間後。


 砦は炎に包まれていた。


 《海龍》《水龍》の主砲……八十ミリ電磁砲レールキャノンの集中砲火を浴びた結果だ。


 その様子を、僕らはアーテミス川の対岸からながめていた。


 僕たちの周囲では、アーテミスの市民が集まり歓声を上げている。


 今まで、町の人達を苦しめていた悪の巣窟そうくつが滅びたのだから喜ぶのは当然だけど、その一方で燃え落ちる砦を見て泣いている子供たちがいた。


 僕たちが砦に殴り込みをかけた時に、連れ出してきた盗賊の子供たち。


 盗賊たちにも家族がいるなら、砦に小さな子供だっていて当然。


 僕たちもさすがに子供に手を掛けることはできず、連れ出してきたのだ。


 ただ、子供たちは連れ出せたが、肝心のクラウジー・モロゾフは最後まで見つからなかった。部下を見捨てて逃げ出したのか、砦の奥に隠れていて艦砲射撃の餌食になったかはもう確かめようがない。


 僕は一人のプシダー族の傍に歩み寄った。


「リーダー。頼みがある」


 自警団のリーダーが僕の方を振り返る。


「盗賊の子供たちの扱いについて、リトル東京に問い合わせた結果、向こうの孤児院で引き取る事になった。迎えが来るまでの間でいいから、子供たちの面倒を見てやってくれないか」

「あんたの頼みなら断れん。任せておいてくれ」

「ありがとう」


 僕はダニの賞金として受け取った金貨の袋に手を突っ込み、十枚ほどの金貨を取り出してリーダーに渡した。


「これを、子供たちのために使ってやって欲しい」

「分かった。これも預かろう」


 子供たちが、この先成長してどんな大人になるかは分からない。


 しかし、僕への恨みはそう簡単に捨ててはくれないだろう。


 いつか、復讐に来るかもしれない。だが、それも仕方ないさ。


 人を殺すと言う事は、そういうことなのだから。

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